庭の草刈りをしている間、
ヒヨコ達をプラスチックの収穫箱をひっくり返して中に閉じ込め、
植木鉢の重しをして土の上に出してあげた。
狭い空間だけれど、段ボールの中よりは自然がある。
初めての野外に最初はびっくりした様子でじっとしていた。
けれど、好奇心旺盛な彼らは、
すぐに頭をピョコピョコさせながら動き出した。
彼らは母鶏に抱かれてこの世に出て来たのではなく、
きっと人工的に温められて大量に孵化されたものに違いない。
そこで食肉用のオスと卵用のメスに選別されたのだ。
もともとは鶏に限らず生き物は自然の中で生まれ、
自然の中で果てて行ったのだから、
室内より庭が良いに決まっている。
考えてみれば人間だってそうだ。
大昔は土の上で過ごしていたはずだ。
その頃の記憶が連綿と引き継がれている私などは、
定期的に自然の中で過ごさないと窒息してしまう。
そんな私は科学技術の発達した現代ではしごく少数派で、
猫や犬すら今や室内しか知らない不気味な世の中になっている。
こんなことを思いながらヒヨコ達の動きを眺める。
彼らは餌を探すため小さな嘴で土を突っつき回し、雑草をむしる。
そのちょこまかとした動きが早送りのように忙し気に続く。
「羊たちの趣味は食べ物と水だけだった」
神学校をやめ、羊飼いになったサンチャゴ少年の言葉を思い出す。
夢を旅した少年『アルケミミスト』の一説だ。
ヒヨコ達は箱に入れている時もそうだけれど、
外に出すとより活発に餌を探す。
どうやら本能は受け継がれているようだ。
それにしても生後3日ほどで自力で餌を探すなんて、
ヒトと比べたら信じられない早さである。
ヒトの身体が大きいせいもある。
いや、馬や牛などの大きな哺乳類もあっという間に独り立ちする。
何年もかかって独立する人間はそもそもから遅れている。
さて、このヒヨコ達、どこで育てようか。
ここは山の中の一軒家とは違い、
家の立て込んだ住宅街である。
このヒヨコは放し飼い向きの活発な鶏なのだ。
今はそのことで頭がいっぱいである。