前に遠くに住む知人から柿で作ったという酢が送られてきたことがあった。
美しい褐色をした柿酢は酸味が強く、
とても柿から自然にできたものとは思えないほどだった。
酢は毎日何がしかの料理に使っているので、すぐになくなってしまった。
そこで、私も友人に豆柿と渋柿を頂いていたので試してみることにした。
説明によると柿を甕の中に入れて3年間地下室に置いていただけだという。
知人の家は冬は凍てつくような寒冷地にある。
知人に電話して詳しく作り方を聞いたら、後日葉書が来た。
柿はどんな柿でもいいらしい。
ただ熟してボトボトになったようなものが良いらしく、
表面についている酵母菌が減るので、
洗わずにそのまました方が発酵が早いらしい。
頂いていた渋柿が完熟するのを待ってヘタを取り除き甕に入れた。
その後、思い出したように蓋を開けては経過を見ていたら、
少しずつ水分が上がって来ている。
どうやら温度が高いので発酵が進んでいるようだ。
これをそのまま床の下に置けば良い。
3年間熟成させて濾過し瓶詰にするとのことだけれど、
3年は長いなあと重たい気持ちになった。
柿酢の出来栄えを知る時は3歳も年をとってしまっているのである。
おそらく昔の台所はこんな手作りの調味料が毎年作られていたのだろう。
物置に並べられた甕には中身や日付の書かれた布があり、
順番で使われていったのだと思う。
だから、3年などと重く考えることはなかったかもしれない。
現代人はスピードに慣れているから待つことができなくなっているのだ。
お味噌や醤油、その他諸々の調味料の並ぶ様子が目に浮かび、
ゆっくりと過ぎていく昔の暮らしが想像された。
まさにスローライフなのである。