今日は初めての尾根を歩いて来た。
先日友達とその尾根の取りつきを歩いたので、
昨夜突然に思い立ってその先を辿ってみたくなったのだ。
大抵の尾根は経験済みの私だったが、
なぜかそこは一度も歩いたことがなかった。
尾根の先には何度も歩いたことのある懐かしい頂きがある。
夕食の支度をしているとどうしてもそのことが気になり、
朝早く出てひとりで行く決心をした。
何しろ誰よりも足が遅い私なので、
歩き出したのは6時半だった。
午後から近くの野山をのんびり散歩する私にしては滅多にないことだ。
地図で調べるととても長い尾根なので、
その取りつきから下山口まで9キロはありそうだった。
アップダウンも多く、果たして歩き通すことができるだろうか。
来てはみたものの不安でいっぱいだった。
このルートには頂まで抜け道がないのも気になっていた。
長い行程にエスケープルートが全くないのは不安だ。
そのため歩けるところまで行って、
途中で引き返すことも考えていた。
ところが、2時間も経たないうちに足が重くなり、
その分自信がなくなって弱気になった。
まだ時計は8時半頃で、このまま帰ると家には朝のうちに着いてしまう。
そうしたら物凄く後悔するに決まっている。
倒木に腰を下ろし水を飲んで思い悩んでいると、
ひとりの老人が私を追い抜いた。
その人にここで引き返したいと話すと、
彼はあと2時間も歩くと着くから、戻ることはないと強く言った。
ここまで来て戻るなど勿体ないというのだ。
その言葉に励まされ先に進む決意をする私。
先ほどの老人は急坂をものともせず、
忍者のように見る間に山道の上に消えた。
心細い私は戻りたい気持ちと戦いながら黙々と進む。
その後、二組のご夫婦が私を追い越していった。
彼らも目指す場所は同じ頂きだったが、
とにかく足が速いのである。
足の強い人にとっては2時間だろうけれど、
きっと私はその倍以上かかるに違いない。
本当に歩き続けられるだろうか。
豆粒のように小さくなっていく彼らを見ながら呆然とする。
他人の速さは気にせずにマイペースで休みながら歩こう。
そうすればいつかは着くだろう。
朝早く出発したのだから暗くなるまで時間はある。
見晴らしの良い尾根には青空が広がり、
赤紫のヤシオの花が時折眼下に現れ、
その清々しい可憐さで心を癒してくれる。
そのうち右手には目指す頂が見えてきた。
あの老人の言葉に励まされ歩き続けて良かった。
結局頂に着いたのはあれから約3時間後、
まさに感慨ひとしおだった。
帰宅後、アプリの記録を確かめると全行程9時間で、
何と休憩を3時間もとっていた。
足が相当に弱くなっている証拠だ。
でも、初めての尾根をたったひとりで歩き通したのだ。
このことは自分を褒めてあげたい。