滞在先から自宅に着いたのはもう真っ暗な夜だった。
ハードな日々が続いていたからとても疲れていて、
部屋に入るなり一歩も動きたくなかった。
でも、ずっと欠席しているクラブに少しでも顔を出さなければ。
ふらふらする身体にムチ打って着替えを急ぎ、再び車に乗り込んだ。
「気を付けて帰ってきてくださいね」
という仲間のメールに心動かされたから。
人は良きも悪きも他者の言葉に影響される。
それによって行動がこうして変わるのだ。
すると、交差点を曲がろうとした時、
東の空に大きな丸い輪がきらめき、大音響が響いた。
何だろう、花火かなと一瞬疑った。
でも、続いて連発された空に向かう光のシャワーに、
「花火だあ!」と、思わずひとり叫んでしまった。
突然の花火はコロナ禍で何もかものイベントが中止になったから、
その代わりなのかもしれない。
いわゆる公共が計画したゲリラ花火だ。
調べてみてはいないけれど、そう思った。
いつもはひっそりとした夜の歩道に、人々が時折立ち止まっている。
ドンという音に驚いて家から飛び出したのだろう。
赤信号が変わっても車は花火を見たくてゆっくりと発車する。
街の交通量は普段と変わらず、花火大会のような混雑はない。
いかにも季節外れの花火という感じがする。
もし、そのまま家にいたらこの花火を見ることが出来なかった。
そう思うと、無理をして出て来て良かったと思う。
何しろ今年初めて本物の花火を目にしたのだから。
だから、私を動かせた仲間の一言が有難かった。