長かった夏の旅は行きは飛行機だったが、
帰る日を自由にしたいためにあえて鉄道にした。
往復切符を買わなかったのは久しぶりのことだった。
記憶に強く残すためには、18切符を買い、
それこそ普通列車を乗り継いで行くべきだけれど、
とても疲れていたので新幹線に乗ることにした。
博多まで高速バスに乗り、そこからのぞみ号に乗った。
そのまま東京まで帰るのはどうしても嫌だったから、
思い切って神戸辺りで途中下車してみようと思った。
神戸は初めての地だし、六甲山系を少しでも歩いてみたい。
バスの車内で決心し、スマフォでホテルを予約。
3時頃には宿に着くだろう。
岡山辺りで私の横に小さな子を連れた若いママさんが座った。
彼女は「ここいいですか?」丁寧に挨拶し、
そのしとやかな所作に育ちの良さが滲み出ていた。
連れている小さな子供は3歳ぐらいで、
トンネルが多いから飽きないように声をかけ、ずっとお喋りをした。
その人も私と同じ新神戸で降りると言った。
私は突然思い立った神戸訪問のことを話し、
ホテルまでの道がよく分からないと言った。
すると、彼女はそのホテルの前をよく通るから、
一緒にどうぞと言ってくれた。
駅に着くと何も考えず、彼女の押すベビーカーのそばにつく。
地下鉄に乗ってホテルのある駅に着くと、
彼女はスマフォを操作しながら出口の番号を教えてくれた。
別れ際に深いお辞儀をして去っていくその人に、
私も惜しみなく手を振った。
そして、今夜のホテルに向かった。
ホテルのアクセスは地下鉄で1分ということで、
彼女が教えてくれた出口から外へ出る。
ところが、人込みの激しい繁華街に出ると、
同じところをぐるぐる回る羽目になり、全く道順が分からなかった。
結局、スマフォで地図アプリを開いて、
開店準備中のお店の人にそれを見せて道を尋ねた。
何がどうなったのか自分が来た駅の方角さえ分からない。
せっかく親切に教えてもらったのに、
地図を読めない自分に腹が立った。