新神戸で新幹線を途中下車したのは、
六甲山系を少しでも体験したかったからだった。
とはいえ、突然思いついたことで事前調べを全くしていない。
頼りにしたのは六甲山ナビというホームページの記事のみだった。
ホテルが三宮だったので、入山する駅は一つ先の元町駅。
できるだけリュックは空身同然にするため、
着替え一式とお財布、それにスマフォ、バッテリ、ルーターを残して、
フロントにゆうパックを頼んで出発した。
カンカン照りの天気は続いていたけれど、
空には怪しげな雲があり何となく不安定な様子だった。
出発が10時を過ぎていて、新幹線駅に着くのは4時頃かなと予測。
ネットのスクショを頼りに県庁あたりを過ぎ、
再度山公園とやらを目指した。
これはさいど山ではなくふたたび山と読むらしい。
途中でハイキングスタイルの二人連れの女性に道を聞くと、
自分たちはビーナスビレッジに行くから一緒にどうぞと言われ、
急いでコンビニに走り、食料と飲み物を買った。
全く地理感がなく不安だった私は、
彼女たちに地図に記された道を辿って新神戸へ行けるか念を押した。
その人たちは今はビレッジまでの毎日ウォーキングだけれど、
以前にはそのコースはよく歩いたから大丈夫と言ってくれた。
現在地確認のための無料アプリは月に2回しかダウンロードできないから、
頼りはスクショの地図とこうした現地人のアドバイスだけだった。
わざわざ神戸で降りたんだから絶対に歩き通そう、
何度も自分に言い聞かせる。
二人と別れてらコース上で出会った人は4人、
その全ての人に道を確かめた。
すると、そのそれぞれが違うコースを勧めてくる。
里山だからそれほど道が入り組んでいるのだろう。
最後に聞いた人の意見で城山を経由してから、
新神戸駅の上の布引の滝へ着くコースに決め、足早に歩いていく。
弘法大師が歩いたという昼なお薄暗い大師道は、
展望が全くなくとても心細かった。
旅先で思いついた山歩きで、
しかもたった一人なのだから恐いのは当然だ。
雨具もライトもないし、普通だったら無謀と言われるに決まっている。
だから、「布引滝・新神戸駅」と記された標識を頼りに、
黙々と3時間ほど歩いて、
ついにビルの立ち並ぶ神戸の町や海が前方に見えた時の、
嬉しかったことと言ったら筆舌にしがたいほどだった。
途中で雷が鳴り響き、雨が落ちてきたけれど、
ゴールが近いと思うと心は俄然晴れやかになった。