ワイルドな山友達が冬の里山で夜を過ごそうというので、
我が家から小一時間ほどの場所にある峠に向った。
彼女たちは重たいテントを担いで山をよく歩いているので、
格好の寝場所を探すのは得意である。
真冬でも山の夜は非日常の時間だから誘われると嬉しい。
私はこれまでに何度か登ったことのある里山を案内した。
人間の記憶というものは曖昧なもので、
特に方向感覚の鈍い私はいつも途中で迷ってしまい、
彼らにいつも呆れられる。
この日も記憶が混濁していて、
林道の何処に車を止めて登山口を捜せばよいのか、
土地勘の全くない遠来の仲間に教えられてしまった。
林道で車を止め、私はスマフォのアプリで現在地を確かめた。
地面に地図を広げ地図を見ている彼女たちはそんな私に、
「地図を読んだらどうなの?」と私に意見し、
地図で現在地は確かめられると言うのだった。
確かに彼らの言うことは正しい。
私はこの頃、現在地の確認をスマフォのアプリにばかり頼っている。
紙の地図を見ようともしないのだ。
彼らの言うとおりに進んだら、目的の山に入ることができた。
尾根までは結構な傾斜でところどころにトラロープもあって、
こんなに急だったのかと自分の記憶のいい加減さに呆れてしまった。
尾根に着くと地図にあったようになだらかな稜線が続いていた。
あちこち偵察して、
彼らは枯葉の中に足が潜ってしまうような場所を見つけた。
私も手伝って明るいうちからふかふかの地面に寝床を作る。
テントの中で落ち着くとビールで乾杯した。
彼らのこよなく愛するひと時である。
そして、彼らは私のスマフォ依存を話題にした。
彼らは山では電源を切ってるらしい。
そうなのだ、ひと昔前まではこんなものはなかったのだ。
何だかこうした遊びに自分がふさわしくない人間のようで、
ちょっぴり胸が痛かった。