旅先での一度目の温泉体験は、世界遺産の見える海岸にあった。
源泉は炭酸泉で体温より低いから沸かし湯だった。
二度目の温泉は日本一高い105度の源泉を誇る小浜温泉である。
ここは湯の湧出量も日本一と言われ、
海岸に面して立ち並ぶ建物の合間のあちこちに、
温泉街らしく白い湯けむりがもうもうと立っている。
真夏でなければどんなに良いかと悔やまれる。
温度にちなんで105mもある足湯には、
日帰り客らしい家族連れやカップルが、
青い海を眺めながら楽しそうに休んでいる。
しばらくすれば、遠くかすむ山並みの向こうに、
真っ赤な太陽がゆっくりと落ちていくのだ。
ここは西の海なのだ。
希望ある朝日も良いけれど、夕日は人の心を抒情的にさせる。
それは何となく過ぎ去っていく時を背中に感じ、過去を振り返る。
身体全体がアンニュイな感じになる。
前日にネットで予約した宿は、ホテルではなく和風旅館だった。
玄関には昔ながらの泊り客御一行様の大きな木札が掲げられている。
余りにも暑いせいか宿泊客はわずか5組ほどで、
広い館内には静寂が漂っていた。
案内された部屋に入ると、もうお布団が敷かれてあった。
すぐに着替えを持って温泉に浸かる。
こじんまりとした浴室には露天風呂もあったが、
残念ながら壁が高くてせっかくの海が見えない。
お風呂を済ませ海岸へ。
釣り人が釣ってきたアジを餌に太刀魚を狙っているという。
その魚は夕方の落日の頃にかかるのだそうだ。
とても親切な人で現地のことを色々教えてもらった。
人それぞれに物語があると思うのは、
こんな一期一会の人と交わる時だ。
その人の脇に座り、
西に落ちていく真っ赤な太陽をずっと眺めていた。
古の人はあの先に苦しみの全くない世界があると、
希望を持ったに違いない。
そこは西方浄土なのだから。