クワトロ・ラガッティの一人である中浦ジュリアン。
先日、冷たい雨の中を訪れた中浦の集落で、
その苔むした坂の上に彼の記念館を見つけた。
しばらくそれについて調べたりしたことがあった。
当時の宣教師が残した本などを読み、
少年4人(イタリア語ではクワトロ)がバチカンを目指したことを詳しく知った。
ラガッティは少年のことだ。
苦労に苦労を重ね西洋に旅をした彼らの情念が知りたかった。
そこで、彼らのことに強く興味を持ち、
バチカン近くのアパートに住んで、深く彼らのことを研究した、
西洋美術史家の若桑みどりが「クワトロ・ラガッティ」という本を書いたことを知った。
この本を読んだことでより一層興味を持ったのだけれど、
いつの間にか時が経ち記憶のかなたに過ぎ去っていた。
そんなラガッティの住んでいた居宅跡がドライブの最中にあったのだ。
私は声を上げて車を止めてもらった。
それは海に面した高台にあり、建物の上には彼の像が立っている。
中は広さ8畳ほどだろうか。
壁には彼の旅の模様がフレスコ画で描かれていた。
私はクリスチャンではないけれど、何やら神聖な空気に包まれた。
帰国して20年、彼は拷問され西坂の丘で逆さ吊りにされ、
四日間も苦しみながらも教えを棄てなかった。
彼の試練を思い浮かべると涙が流れそうになる。
屋根に上ると彼が遥かローマを目指して向いている。
空も海も鈍色でひたすら重たい。
左右に伸ばしたその手のせいで全体が十字架のように見える。
彼が目指したクリスチャン世界はどんな指向の世界だったのか。
それらは様々に分派し今なお血みどろの戦いを続けている。
ジュリアンに命を捨てでも守らなければならない神はいたのだろうか。
無宗教の私はそんなことを思ってならない。