ここは生まれ故郷だというのにすっかり町は変わってしまい、
ランドマーク的な建物も敷地そのものが造成し直され、
私には主要道さえも分からなくなってしまった。
子供の頃に歩いて行った高台の名所に行きたくて、
学校の辺りまでやって来ると、
ランドセルを背負った数人の男の子たちと会った。
下校時間で家に帰るところらしかった。
私は少年たちに挨拶をして、高台の名所の道を尋ねた。
彼らはそこまではバスがあると言った。
私が歩いて行きたいと答えると、
近道を教えてくれると嬉しいことを言った。
ここはちょうどすり鉢の底に学校があって、
生徒は必ず石段を下りなければ登校できない。
帰りはその分当然上らなければ家には帰れない。
今は下校時だから私の目指す高台に向かうことになる。
網の目のように家々の立ち並ぶ細い階段を歩きながら、
彼らは私にたくさんの質問をしてきた。
「あなたは何歳なの?あなたはどこから来たの?」
あどけない表情で話す「あなた」という大人びた呼びかけが面白かった。
私も彼らにたくさん質問をした。
幼い頃に過ごしていながら彼らの案内する石段の道は思い出せない。
何しろ住む人しか知らない迷路の道なのだ。
毛細血管のように張り巡らされた石段の途中途中で、
一人減り二人減りして、
てっぺんにある目的の場所に案内してくれるという少年は二人だけになった。
そのうちの一人のアポロのように美しい顔をした少年は、
ランドセルを家に置くから寄って欲しいという。
例によって車の通れないカスバのような迷路に彼の家はあり、
窓の中からお母さんが通りに車があるから乗せていきますよと、
有難い声をかけてくれた。
私はスマフォを高く上げ、「万歩計を稼ぎたいのです」と丁重に断った。
彼の家から這うように路地を抜けると、
その先には確かに大きくくねったバス通りがあった。
目的の高台の入り口に道標もあり、大きな公園になっているようだった。
それからまた住宅街を縫って、
冬なお青々と光る照葉常緑樹の石段を上っていく。
するとてっぺんが広がりサッカー場の数倍はある大きな広場に着いた。
遠く広場の先には遊具もあり、親子連れが楽しく遊んでいる。
彼らはここで少し遊びたいという。
私も懐かしい場所を思い出したかったから、
彼らと別れて海の見える先まで行くことにした。
そして、昔いつも眺めていた鉄塔の地点を確かめよう。
あそこに上れば光る星を手のひらに受け止められると信じていた。
そこまで行ってみよう。