初めての山にひとりで登ってきた。
予定を立てるのがとても下手な私はいつも地図を用意しない。
今回の山は旅先の都市の最高峰とあるけれど、
標高はたかだか500メートルほどである。
前日にネットでバス停を調べ地図を頭に入れておいた。
バスは市の中心部から約1時間かかった。
停留所を降りると、いくつか特徴的な山々が見えている。
あの一番高い山がそうだろうか。
通り付近は点々と住宅があるだけで店も少ない。
ネットには登山口への道が文章で書いてあったけれど、
すっかり忘れてしまった。
道を少し戻ると釣具屋があり、人がいたので尋ねてみた。
どうやらバス停からすぐに脇道に入れば良いらしかった。
帰りのバスは反対側から乗るため横断歩道を渡って時刻表を確かめた。
車の旅ではないのでバスの時刻は調べなければならない。
かなり遅くまでバスが走っていたので、
4時台のバスに乗るようにして登山口へ向かった。
釣具屋のおじさんが教えてくれた道を10分ほど進むと、
林道の交差点のような場所に出た。
周りはまだ住宅が多い。
登山口には地図があったのでそれを見ると、
私のとるべき道は3つに分かれた道の真ん中のようだったので、
その道を進んだ。
そもそもそこで間違っていた。
地図のある地点の左の道にほんの数歩進むと、
すぐに登山ポストが設置されていたのだった。
ネットで読んだように墓地の脇道だ。
なのに、私は間違った道を通り、
うす気味悪い地蔵のいくつか立つ場所で、
斜面を登っては登山者の目印となる赤テープを探し回った。
でも、それらは探し出せなくて、沢で立ち往生し数回来た道を戻り、
行き道にあった峠という標識を頼りに山道に進んでいった。
ここは東シナ海に面しているので、
峠からは明るくて広い海が見えるはずだ。
今日はそれで良しとしよう。
こんな昼なお暗い山道では、
もう市の最高峰の海の見える山頂はこの時点で諦めざるをえなかった。
人っ子一人いない山中の沢でインスタントラーメンを作って休み、
クスノキやツバキなどの常緑照葉樹の森を峠に向かって進んだ。
歩いても歩いても尾根の空が見えてこない。
風は唸りを立てて私を吹き飛ばしそうだ。
一体海の見える峠にいつ着くのだろう。
そこまで私は本当に行けるのだろうか。
出発から一時間ほどしか経っていないのに、
時間がひどく長く重く感じられた。