昔からハレの日と言われる日があった。
例えば一生に何度もない入学式や成人式、結婚式などの目出たい日。
いわゆるセレモニーを伴うものだ。
その日はおしゃれをして、滅多に口にできないご馳走にあやかったりした。
そんな日をハレの日と言った。
最近そういった表現をあまりしなくなったのは、
人々が豊かになってハレの日のような贅沢な日が増えたからだと思う。
今日はピアノ教室の発表会を聴きに行った。
市の小ホールの舞台には花束が飾られている。
幼稚園児ほどの幼い子も正装をして出番を待っている。
靴は多分一生に一度、この日にしか履かない黒いエナメルの靴だ。
まさしく彼らにとってはハレの日に違いない。
発表会だから私を含め観客は正装とはいえないまでも、
普段着よりは少しマシな服を着て座席に座っている。
観客側はハレの日とまではいかない。
開演ベルが鳴ると、教室の先生が挨拶をし、
プログラム順に子供たちが現れるのである。
曲目に対する演奏者の伝えたい思いもマイクで紹介される。
袖で待つ子供たちはカチカチに緊張しているに違いない。
初めての生徒のためには先生が隣に座り、
少し音楽的な伴奏を添えてくれる。
どうにか弾き終わると小さな子供は椅子から立ち上がり、
観客に向かって深いお辞儀をする。
それが、教えられた一連の儀式なのだろう。
小さいなりに大人のようなドレスをまとい、
男の子は白黒の演奏スタイルで蝶ネクタイをしている。
発表は日ごろの練習次第とはいえ、
緊張で指がうまく動かない子たちもいた。
発表会が無事終わると、彼らは家族で何かご馳走を食べに行くに違いない。
うまく弾けた子もミスしてしまった子も、
日常とは違うハレの日の意味を少しは分かったと思う。