毎年、桜の季節になるとどうしても見に行きたくなる。
満開の桜の青い空に白く映える様子は完璧そのもの。
その美に誘われて心が騒ぐのだ。
まさにこの短歌、古今集の時代から人は桜に心を騒がされたのだ。
世の中にたえて桜のなかりせば
春の心はのどけからまし 藤原業平
今年は春が早いので桜の開花も早かった。
花の季節以外では桜の存在はほとんど気にならないのに、
この季節だけはまわりにいかに桜が多かったのか、
あらためてその存在に驚かされてしまう。
私が行き来している道中にもたくさんの桜の花が咲いている。
運転席でちらっと眺めては、
「あそこでいつかゆっくりしたいなあ」などと思ってしまう。
でも、いつかと思うだけでずっと過ごしてきた。
だから、今日はお昼を食べた後、
そんな場所の一つへわざわざ車を走らせてみた。
遠くから眺めた桜並木のあの場所はいったいどんなところだろうか。
ただの並木道なのか、公園なのか、それとも学校の校庭なのか。
国道を離れ、それらしき横道に入ると、
そこには水路沿いの細い道が続いていた。
軽自動車がやっと入れるほどの狭さだった。
小さな橋を渡ると、ベンチや東屋のある明るい広場があり、
ちゃんと駐車場も整っている。
どうやら市の公園らしい。
こんもりと盛られた丘の周りにベンチがあって、
近所の人なのか老人たちが憩っていた。
若い女性がひとり、芝生に腰を下ろしてパソコンを見ていた。
マスクはしているが、コロナの騒動もどこ吹く風である。
クリークのような水辺に桜の白い影が浮かんでいる。
濁った水の上にほんの少し花びらが散る。
足元には小さな枝に瑞々しい桜が数輪、見事な開き方だ。
外食店で味の濃い口に合わないお昼などせず、
ここでお弁当などを食べれば良かった。
来年はお弁当を持ってここへ来よう。
いや、それよりまた違った場所を見つけてみようか。
桜の時期は実に忙しい。