ピアノをやり始めてひと月以上は経ったけれど、
なかなか弾けるようにはならない。
何しろ音部記号での低音部が、
ヘ音記号というもので書かれているからだ。
ヘ音記号はバス記号ともいう。
高音部を示すト音記号なら小学校の時から馴染みがあるし、
現在も毎日のように目にしている。
でも、ピアノをやらなかった私は、
ヘ音記号を読んだことがなかった。
だから、同じ五線譜の普通ならドと読むところを、
ミに置き換えたりする頭の作業は、
まるで錆びた歯車を無理やり回しているようで、
実に不自然でぎくしゃくしてならない。
子供の頃にピアノを習っていたら、
苦労することはなかったろうにと思うと悔やまれる。
こんなふうにヘ音記号も自然に頭に入らない上に、
10本の指の動きもスローモーションのようにしか動かない。
ピアノは弦楽器と違い音程を自分で作らない分、
両手が独立して音を弾くので、
頭の中の回路が壊れそうになる。
そんな折、友人がビオラをやり始めた。
それが、何とビオラの楽譜も音部記号がト音とは違うのだ。
ヘ音記号よりも見慣れないアルト記号が記され、
ト音記号のドが五線譜のシの位置になる。
たくさんの音をたったの5つの五線譜だけで表すと、
ト音記号だけではとんでもない線の量となり、
読み解くのは不可能だ。
そのため基本的な単位を変えたのだ。
しかし、指揮者はこうした読み替えを瞬時にやってのけている。
そう思うとどんな世界でも訓練の凄さを感じてならない。