仲間三人で深い山奥に出かけた。
そこはかなり大きな観光地の先なのだが、
訪れる客も滅多におらず貸し切り状態の別天地だった。
翌日に道なき尾根を探し、私たちの憧れの山に登りたかったから、
その登山口近くの森で野営しなければならない。
だが、この付近にはクマが多くいるので用心しなければならず、
宿となるテントには点滅ランプをつけていた。
猛者の仲間二人がビールやワインを背負ってきてくれ、
私は夕食にイタリアンを披露した。
時折、シカの鳴き声が響くが、辺りは森閑としていた。
何という贅沢な時間なのだろうと、私たちは至福の時に浸っていた。
大方のお酒を飲み終わり、歓談していた時、
仲間のひとりが「しぃー!、何か音がする」と言った。
一同、耳を澄まし神経を集中させた。
「ドスン、ドスン」と大型の恐竜が大地を踏んでいるような音だ。
あの音はクマの足音か?
シカが大木にぶつかって角を磨いているのか?
でも、どれにもあてはまらないではないかと、
三人は凍ったように互いを見つめ合った。
私はジュラシックパークの映画で子供が逃げるシーンを思い出した。
地底から響く「ドスン、ドスン」の音は恐ろしかった。
クマの多発地帯なので、手を強く叩き真剣に音を立ててみた。
「ドスン、ドスン」の音は10回ほど一定の間隔で聞こえた。
いわゆる「天狗倒し」という山での突然の大音響は、
その後に「メリメリバリバリ」と木が倒れる音がするらしい。
この時の音はそういったものはなく、別のものだ。
音が止み再び平和な宿になっても、私の恐怖は収まらなかった。
横になって眠ろうとしても、そばに巨大動物がいるようで気が気ではなかった。
そもそも動物は獲物に逃げられるので、足音は立てないものだ。
この音が何だったのかは、私たち三人の一生続く疑問になるに違いない。