友人夫妻が新年の挨拶に来てくれた。
リビングにはたまたま週末の冬山山行に備えて、
大きなリュックを壁に立てかけて置いていた。
それはハイキング用のものではなく、いかにも冬山という感じがする。
ザックの中には寝袋やマット、その他厳冬期用の服などが入っていて、
パンパンに膨らんでいた。
夏と違い冬季の山は小屋泊りとはいえ、
多めの衣類や手袋等々、どうしても荷物がかさばってしまう。
そのため、慣れない私はリュックをリビングに置いて、
荷物を入れたり出したりして、色々と頭を捻っていたのだった。
冬山の用意は実に悩ましくてならない。
晴天なら汗をかくし、荒天なら手が凍るほどになる。
近くの里山程度には行くこともある彼らにしてみれば、
その大型ザックには驚いた様子だった。
コーヒーを片手にじっとザックに見入る二人。
「何処に行くの」と聞かれたので、冬山と言ったら、
彼らは即座に「遭難するから今のうちにキャンセルすべき」と言う。
それも二人して何度も言う。
この時期、冬山の滑落や遭難事件がニュースでよく報じられる。
友人夫妻にしてみれば正にそういう世界が冬山なのだった。
温泉付きの営業小屋のある冬山初心者コースとはいえ決して侮れない。
風が強いと雪原の斜面を底まで滑落することがあるのだ。
すべて天候次第だ。
しかも、私の足の加減も不安材料なのだった。
このところ指の痛みが治まっているけれど、
雪の山でぶり返すかもしれない。
彼らはその点も心配してくれた。
決して無理はせず、荒天の場合は行かないと約束する。
二人が帰った後、また荷物をひっくり返して、点検を始めた。
シュラフ、マット、カバー、雨具、スパッツ、冬用靴、ストック、
手袋、テルモス、食器、コップ、ナイフ、ウール、靴下、着替え、
行動食、サングラス、ネックウォーマー、毛糸帽子‥‥、
不足分の10本爪アイゼンは宅急便で夕方に届く。
久し振りの山靴も磨かなければ。