この季節になると、たまらなく山に咲くお花が見たくなる。
近くの里山では見ることの出来ない高山植物と呼ばれる花である。
それらは里には根付かないので、
自ら苦労して会いに行かなければ見ることができない。
雪が殆ど消えかかった頃に高い山では次々と花の饗宴が始まる。
それらの植物は過酷な冬を耐え抜いた後に花開くせいか、
可憐で美しく、その外連(けれん)のない姿はため息が出るほどだ。
たいていの花がこの時期に咲き始めるので、
毎年一度は我が身を叱咤して登り、稜線に広がるお花畑を見に行っている。
苦労のしがいがあることはこれまでの経験から十分に知っている。
駐車場には都会の車がいっぱい止まっていた。
コロナのせいでここも人が多いようで、若い人が目立っていた。
最もお花畑の情報がネットに溢れ始めてからは人が毎年増えている。
天気予報は午後から下り坂ということだから、
夜に車内で仮眠して朝の5時には登山を開始した。
お花を見るためだけに登るのだから荷物は最低限にして、
水と雨具とバナナやおむすびなどの食料だけをリュックに入れた。
どんよりとした日差しの中、急な山道を歩くこと4時間弱、
汗びっしょりになってやっとのことお花畑に着くと、
雲行きが怪しくなった。
冷たい風が吹いて広い稜線が近くまでガスに覆われた。
それでも私の周囲の足元に広がるお花畑には、
期待した通りにびっしりと花が咲いていた。
白い花、ピンクの花、黄色い花など、まだ種類は少ないけれど、
お目当ての花ばかりだ。
気温が低くなって手袋が必要になる。
ここは谷川連峰の端にあり、天気が急変しやすい場所である。
小一時間も花を散策し、
賑やかなハイカーたちの間をすり抜けるように来た道を下った。
途中で雨が本降りになったり止んだりと天気は悪かったけれど、
ひとりで向き合う山の自然はとても心地よかった。
自分と山の自然が一体化しているように感じられた。
この山は毎年歩いているので、体力を試す意味もある。
残念ながら一年一年コースタイムが落ちているのが現実だ。
来年もお花に会いたいので、もう少し足を鍛えなければ。
よおし、明日からまた頑張ろう。
河原の水で泥で汚れた雨具を洗いながら、そう思うのだった。