イチゴが最初に一粒だけ赤くなったのは今月の1日だった。
それからというもの庭を占領したイチゴは次々と熟し始め、
朝と夕方にそれらを集めて摘むのが今は日課になっている。
露地物の完熟したイチゴは甘酸っぱくてとても美味しいけれど、
生のイチゴはせいぜい4、5粒しか食べられないので、
殆ど凍らせて厚手の保存袋に入れてためている。
それがいつの間にか冷凍庫を占領するほどになっていた。
重さを測ったらちょうど2キロだったので、恒例のイチゴジャム作りに挑戦した。
挑戦とは大袈裟だけれど、
イチゴジャムは強火で半時間ほど煮詰めなくてはならず、
ちよっと目を離すと大鍋からはみ出てしまい大惨事になる。
熱々のジャムを入れる保存瓶もジャム作りの直前に、
半時間ほど煮沸消毒しておかなければならない。
こんなふうにそれだけに集中しなければならないから、
イチゴジャム作りにはちょっとした決意が必要なのである。
ロシアの子供向け動画に『マーシャと熊』というのがあって、
熊と主人公の女の子がジャム作りをしている話がある。
いたずらっ子マーシャに翻弄される気のいい熊ミーチカのお話だ。
ジャムの物語では沸騰したイチゴが鍋から溢れ、
部屋中がジャムの海のようになって、
外へ流れ出てしまうという面白いものだった。
ジャムを作っていると、『マーシャと熊』のように、
沸騰して火山のマグマのように膨らみ、
ジャムが鍋から飛び出すことがよくある。
だから、ずっとかき回し続け、溢れそうになったら慌てて火を消す。
そんな作業を半時間ほど繰り返し続けなければならない。
『マーシャと熊』では言葉を話すのは人間であるマーシャだけである。
それ以外はみな動物だから身振り手振りで会話が成り立っている。
私はマーシャの早口なロシア語の美しさに心惹かれていた。
いつか学びたいとも思っていたのに、
ロシアが起こした戦争はまだ先も見えず、
残念ながらもうそれはできないだろう。
今年のジャム作りは政治がいかに重要かということを、
あらためて思い知ることになった。