
近くに以前は大きな農家をやっていたのだなと思える家があって、
そこの庭には廃車のようなトラクターや、ハウス用の枠などが放置されている。
車道に面した庭に大きなカリンの木があって、
枝にたくさん黄色い実をつけている。
毎日のように車でそこを通るので、
カリンの実が道に転がっているのが気になっていた。
日増しに実が落ちて4個ぐらいになった時、
無残にも二つは車に潰されてぺしゃんこになっていた。
カリンの実は蜂蜜に浸けると喉の病に効能があって、
昔は民間の常備薬だった。
去年、友達と隣町を散歩した時、小さな森に落ちているカリンを拾った。
今年もそこにふたりで探しに行ったけれど、
カリンの木そのものが見つけられなかった。
だから、農家のカリンが欲しくてたまらず、
ついに歩いて拾いに行くことにした。
人目を気にしながら道に落ちているそれを2個掴むと、
この家の人に断ってみようと思った。
敷地外に落ちている実を拾っても泥棒にはならないが、
何となく気が引けたのだった。
敷地の入り口から大分歩いたところに母屋があって、
大家族なのか車が4台もあちこちにあった。
恐る恐る玄関チャイムを鳴らすと、
すぐに中から中年の男性が出てきたので、
「道に落ちていたこれ、頂いていきます」と、頭を下げた。
すると、その人は優しい目でにこやかに微笑み、
「庭の方のを拾ってください。きれいなやつを」と言うのだった。

何度もお礼を言ってカリンの木の下に行き、傷のない実を拾っていたら、
何と先ほどの人がやって来た。
新しいレジ袋を私に差し出し、
「これに入れて持って行ってください」と言うのだった。
私が先ほどの道で拾ったカリンを両手で掴んでいたのを見て、
袋を上げようと思い立ち、
わざわざ奥の母屋から出てきてくれたのだ。
見も知らぬ人間に対して何て有難い対応なのだろう。
その日はこのことで心が温まり、嬉しくてならなかった。
欲を出して15個も頂いて来た艶のある立派なカリン、
さて、これから石のように硬い実を割り、
種を抜き、薄切りにしなければならない。
親切なあの方に報いるためにも音を上げず頑張らなければ。