洗濯ものを片づけに二階に行っていたら、
何やら焚火の匂いが部屋に漂って来た。
近くの農家がわらでも燃やしているのだろうか、
でも、窓も開けてもいないのにと不思議に思い、
下へ降りたら居間はもっと強い匂いがした。
キッチンを見ると、煮物を温め直すために鍋に火を入れたままだった。
鍋の中が焦げていたのではなく、
横に置いていた木のへらが大きな炎を上げて燃えていた。
その燃え方が完全燃焼状態で煙が全く出ていない。
そのため燻製をしただけで反応する煙探知機も作動しなかった。
私は慌てて燃えるへらを水につけて消した。
汁は半分ほどに煮詰まっていて煮物は大丈夫だったけれど、
壁に大型のカレンダーを貼って油除けにしているので、
それに燃え移らなくて良かったと胸を撫でた。
それで思い出したことがある。
よく通る道路沿いに火事になってそのままになった家があるのだ。
もう2年ほど前からそのままになっていて、
家の外観は洋風でそれほど古くもなく残っているので、
パッと見たでけでは分かりにくい。
だけど、よく見ると内部は焼けてしまって焦げた柱が残り、
不燃材の外壁が立派なだけに異様な姿に映る。
ここの住人は見たことはないけれど、
ガーデニングが趣味らしく四季折々赤や黄色の様々な花が咲いていた。
夏には決まって緑のカーテンが窓を覆いいかにも涼し気で、
車でなかったらお邪魔して見せてもらいたいほどだった。
それが、今では庭には雑草が生い茂り、見るも無残な光景になっている。
ここに住んでいた人はどこへ行ったのだろう。
解体工事もせず、こうして建っているのを見て苦にはならないのか。
もしかしたら身寄りのいない老夫婦だったのか。
それとも不幸なことに火事で亡くなったのだろうか?
ここの住人にどのような物語があったのか。
この家はずっとこのままなのだろうか。
そんなことを思ってはいつもこの前を通り過ぎる。
乾燥した日が続く。
私も火を使ったら絶対にその場を離れないようにしよう。
それとも電気に変えようか、真剣に考えている。