夜明けが遅くなったので、夏の間やめていた散歩をするようになった。
なぜ暗い中が良いのかというと、
明るいと車も多いし、何より世間が見えてそのせいで心が散漫になる。
また、本当の黎明というものの凛とした美しさにも触れることができない。
身の引き締まるような冷気が一層精神を高揚させてくれる。
真っ暗な地上のそのまた上には、
晴れた日には一番星が光り、頭上近くにオリオンが瞬き、
その隣にはうっすらと北斗七星が確認できる。
そして、毎日少しずつ形を変えていく銀色の月が煌々と輝いている。
この月を昔の人は毎日眺め、
日々の進み具合に一定のリズムがあることを知った。
もし、私がその時代の人間だったら、
月の形の変化を観察するなど思いもつかなかっただろう。
でも、三日月と半月、それに満月ぐらいには名前を付けたかもしれない。
雨でもない限り、毎朝5時頃から30分だけ歩数にすれば4000歩、
家の周りを歩いている。
ここは平野地なので坂は一切なくて、
道を渡るのにわざわざ歩道橋を利用することにしている。
それも脛を伸ばして階段をよいしょと2段ずつ歩くのだ。
数えながら歩くのでいつも19歩である。
この2段歩きは私のたまの山歩きのために役に立っている。
これがいつもの歩数でできない時は何か風邪を引いたりして調子が悪い時で、
歩道橋の2段歩きは健康のバロメーターにもなっている。
散歩の間、周りは暗くて、
誰かとすれ違っても寝静まっている世間のために挨拶などしない。
頭には室内用の大きなヘッドフォンをつけていて音楽が流れている。
最近聴いているのはショスタコーヴィッチ7番のレニングラード。
第二次大戦でナチス軍が条約を破って侵攻し、
街が包囲された時に作られた曲だ。
ふとガザの人々を思い起こす。
全く癒しのない曲だけれど、
かえって夜明け前の歩きにはふさわしい。