函館の旅③
2日目のこの日の目的はこの地の山に登ることだった。
事前に無理なく日帰りハイキングが出来る山を探していたら、
恵山という噴煙を上げる活火山がとても興味を引いた。
ただそこに行くにはホテルから函館駅に列車で移動し、
始発のバスに乗り、4時の終バスに乗らなければならない。
50キロほどの距離なのに路線バスでは2時間もかかる。
恵山に行くのは日に二本ほどしかなく、
次のバスでは遅くなって不安すぎる。
そこで、思いついたのがレンタカーだった。
あまり知らない町を慣れない車で運転するのは好きではないが、
恵山を調べているうちに多少無理をしても行きたくなった。
予約をしておいた駅前のレンタカー屋で、
所定の手続きをした後、目的地をナビに設定してもらった。
軽自動車を頼んでいたからそれほど神経遣うことなく、
私が運転席に座った。
広い道道(県道?)を通り、 何やら緑色の標識の高速道路のような道に入った。
インターがないので普通のバイパスなのか?
その後はナビの案内がほとんどなく、
すぐにあちこち曲がるアナウンスのある関東と違い、
間違っているのではないかと不安になった。
高速のような道を下り、田舎の道を走る。
家はところどころにあるけれど、人はひとりも見かけない。
トンネルを過ぎたあたりで、
たまたま停車して電話をしていた女性に無理やり尋ねる。
道の駅があったので聞いてみると間違いなく、
海岸べりから4キロの道を300メートルも上がって、
やっと目的の火口原口駐車場に着いた。
ここから山頂へは300mほどの高度差だ。
関東で言えば618mの標高は里山に入るけれど、
北海度は緯度が高いせいか雰囲気からすれば千メートル級の山に思える。
しかも、ここまでの道が長かった。
私の住む関東なら10キロも走ると次々と市が変わるけれど、
この地も住所は函館市というのだから驚いてしまう。
人の姿などここまでほとんどなかったのに、
途中でひとりの若い女性が歩いていて驚いた。
山ではリュックを担いで歩いている人に私は反射的に声をかけてしまう。
その人はどうやら外国人らしく、喜んで乗ってきた。
片言の日本語と英語で話を交わし、
彼女がシンガポールからやっきた旅人だと知った。
ここは海辺のバス停から上っていくと1時間以上かかる。
よくひとりでやってきたと私たちはひどく感心した。
とりわけ山旅の経験のない同行の友達は、
ただただ信じられないと驚いていた。
でも、私は一人旅の彼女の行動はそれほど奇矯には映らなかった。
山好きな人間は男であれ、女であれ、
老いも若くも地図に道があれば歩くし、そんな人をよく見かける。
当然、帰りもバス停まで歩く予定の彼女に、
山を終わっても車の前に待っていてくれたら、
帰りも函館まで乗せてあげると言った。
彼女はとても喜んでうなづいて、私たちと一緒に歩き出した。
目前には真っ青な空のもと、
茶褐色の山肌に荒々しい姿を見せる恵山が広がっている。
写真で見た通りの白い噴煙がもくもくと立ち上っているではないか 。
さあ、ここは岬の突端の山だ。
私の日常では出会うことのない三方を青い海に囲まれた山の風景。
期待で胸が膨らんだ。