長い列車旅の帰り道、上野公園で少し休もうと思って途中下車した。
この時は荷物を宅急便で送らず、ガラガラと引いて歩いていた。
構内はインバウンドの人たちでごった返している。
さすが天下の上野のいつもの光景である。
身軽になりたいので駅のコインロッカーに荷物を置こうとしたら、
どこもかしこもランプが赤色で使用中だった。
幸いやっと一つだけ緑ランプの空きを見つけ、
最上段だったけれどそこに入れることにした。
でも、背の低い私には荷物を持ち上げることができても、
中に押し込むことができない。
ケースは布製でそれほど重くはないのだが、
何しろ背伸びしても力が入らない。
荷物と格闘しているそんな私を夥しい人々が横目で見て過ぎ去っていく。
駅員らしい人も通りかかったが、
声をかけて手伝ってくれる人はいなかった。
ところが、顔の色が少し違うアジア人らしい若い数人の人たちが私の前で止まり、
その中の男性一人が荷物を上げてくれるとジェスチャーで示すのだ。
私は嬉しくて「有難う」と言って、荷物から手を離した。
男性はひょいと荷物を持ち上げロッカーに収めてくれ、
にこやかに仲間のもとに戻って行った。
あれほど数えきれない人が私を見て立ち去ったのに、
その人は立ち止まって私を窮地から助けてくれたのだ。
本当に有難かった。
鳥の餌を買いに行った先日のこと、
20㌔もある袋をカートに入れることはできたが、
車の荷台に持ち上げて積むことができなかった。
ちょうどその時、少し色黒のアジア人らしい3人組が、
車から降りてお店に向かおうとしていた。
私は咄嗟に彼らを大声で呼び止め、「すみませーん」と言って、
袋を車に乗せてくれるようにと袋を指で指し、
彼らに向かって手を合わせた。
すると、彼らの一人がにこやかな顔をしながら戻ってきて、
あっという間に荷物を抱え、ここに置いて良いのかととまで言ってくれた。
私は何度もお礼を言ったが、平気、平気という動作をして店に向かって行った。
なぜか私と同じ日本人は他人に無関心になってこんなことを頼みにくくなった。
以前なら困った人を見たら誰か彼かが助けてくれたものだ。
「隣の他人は泥棒と思え」といった言葉が現実になり、
時代は大きく変わってしまった。