雨模様の日本海の潮風に打たれ、
美保関から同じバスに乗り継いで松江に戻った。
ここも私にとって訪れるのは生まれて初めての町だ。
町というより松江市は島根県の県庁所在地で、
人口は20万近くもあり、山陰地方では最も開けた場所だろう。
ビルがたくさん建っていて、車も頻繁に行きかっている。
バスを降りると小雨が降ったりやんだりしているが、
冷たい風は吹いておらず助かった。
ランチタイムも終わりそうな時刻だったので、
急いで食堂を探すことにした。
遠くに松江城が霞んで見える辺りをわけも分からず歩いた。
観光客相手の遊覧船のある堀川のたもとの小さなビルに、
ちょっと洒落たレストランがあった。
まだランチタイムの終わりまで10分ほどあったので、
そこに入ることにした。
「精養軒」という名の奥に細長く続く小さな店には、
入口から長く伸びるカウンターがあって、
二つ三つの壁側のボックス席は客で埋まっていた。
カウンターに座りメニュー写真を見て、
ここの名物らしいカツライスを頼む。
隣の席の客も美味しそうにそれを食べていたのだ。
壁に見たことのあるような卓球選手らしい写真があったので、
ママさんに誰ですかと尋ねると、
何とかという有名な選手で松江と縁がある人なのだそうだ。
そういえば出雲市の駅構内に卓球場を兼ねたお店があったっけ。
台が4つもあって二組の客がポンポンと球を弾ませていた。
どうやらここは卓球が盛んな地方のようだ。
私が話しかけたことで、
ママさんも私がどこから来たのかと聞いてくれ、
関東だと言うと色んなことを話してくれた。
忙し気に料理を運びながら、
ここはカツライス発祥の店でテレビで何度も放映されているとか、
山陰地方は東京が遠いからとても羨ましいとか、
旅人には有難い会話だった。
偶然入った店が創業が昭和7年と古く、
お店の人がこんなにもフレンドリーで、
デミグラソースのかかったカツライスもとても美味しかったし、
偶然と必然はある意味同じなのかもしれないと思った。
私は運動のために卓球を始めて1年が経つ。
突然、山陰に旅をして、
このお店を偶然見つけたことは必然だったのかもしれない。