山陰の旅の二日目はあいにくの雨だった。
通りに掲げられた神在月と書かれた幟は風に揺れ、
祭りを示す半紙の御幣も縄に結ばれ濡れている。
私は旅先では雨に当たることは滅多にない。
雨の日に歩くのは好きではない。
でも、ここまでせっかく来たのだから、
この日は予定通り日本海の見える美保関まで行くつもりだ。
列車は宍道湖のほとりを走るが、雨にけぶって視界はなかった。
乗客は多く、学生服姿の男女で賑やかだった。
松江で下車し駅前の路線バスに乗る。
一畑バスに1時間以上も揺られて、終点まで行った。
終点は美保関ターミナルという場所で、
そこに並ぶ巡回マイクロバスに乗り換えた。
このマイクロバスにはときたま老人が乗ってくるだけで、
お客はほとんどいない。
老人は病院の停留所や郵便局で下車し、
帰りはまたバスに乗り込むようだ。
寒村にしては行政が行き届いている。
赤い石州瓦の残る小さな集落が道沿いに点在する。
コンビニなど一軒もない。
乗り換えた巡回バスの料金は200円だった。
一日に数便しかないが、タクシーと比べたら格段に安い。
どんなにか買い物難民と呼ばれる人たちの助けになっているだろうか。
美保神社を参拝すると、入り口にある路地の商店街を歩いた。
そこは石畳の細い裏通りで、小さな店が軒を連ねているが、
空いている店はなく人もいなかった。
旅籠らしい古いたたずまいの旅館だけが開いてはいたが、
泊り客の姿はなかった。
海の向こうに見える賑やかそうな都市はおそらく境港だろう。
工場やビルが雨に霞んでいた。
こんな風景は珍しい。
岬の果てのこの町は、
時代が昭和のままで止まっている感じがして趣があった。
晴れた日だったらもつと散策できたかもしれないのに、
たったの1時間で先ほどの巡回バスを待った。
そろそろ正午だけれど、松江の町でお昼を食べよう。