山陰地方を旅してきた。
関東から山陰はとても遠い。
新幹線で岡山まで行き、そこから特急に乗り換え、
倉敷を通って、出雲市まで行った。
その路線は伯備線と言って、
私はそのはくびという読み方も知らなかった。
岡山からは新型車両に生まれ変わったという
「特急やくも」というあずき色で統一されたしゃれた列車に乗った。
やくもとは松江に縁のある小泉八雲のことだろう。
手洗い車両も広々として、
インテリアはJR西日本らしくとても豪華な雰囲気だ。
実はせっかく山陰に出かけるのなら、
鉄道ファン憧れの寝台列車「サンライズ出雲」に乗りたかったが、
復路は格安席ののびのび座席が満員だった。
それで仕方なく新幹線にしたけれど、
かかる時間はこちらの方が格段に速い。
しかし、岡山から日本海に向けて走るレールは、
途方もなく長く、鉄道が古いせいかとにかく揺れに揺れた。
ひと昔前なら8時間ほどはかかったのかもしれない。
出雲市駅に着くと、ホテルに荷物を預けてチェックインを済ませ、
JR駅の隣にある電鉄出雲市駅から一畑電車に乗った。
この電車は「ばたでん」と呼ばれ、鉄道ファンにも人気があるそうだ。
現地の人に親しまれているこの一畑電車は、
関東の西武線、東武線、総武線などと違い、
その名で独特なアイデンティティを彷彿とさせている。
この線は駅名に難読文字が多く、
車内には旅行者用に読み方がクイズ風に説明されている。
ちなみに出雲大社に行く時の乗換駅は、
「川跡」と書いて「かわと」と読む。
他に遥堪、美談、旅伏などよそ者には読めない駅名があった。
旅とは見知らぬ土地の文化に触れることで、
こうした地名の読み方一つとってみても訪れた人の心を浮き立たせる。
大抵の人は私のように日常から非日常への移動を、
自身の距離的な移動によって体験するのがいちばん容易なのだ。
それにしても岡山から特急で3時間もかかって辿り着いた山陰の町、
そこは、とてもとても遠く感じられた。
でも、田園地帯を走る2両編成の愛らしい車両には、
下校中らしい学生や一般の客が乗り降りしていて、
ここにも生活があるのだなあと感慨深かった。