隣の町で用があって、その帰りに仲間の家に寄った。
彼女は趣味の会に新しく入って来た人で、
なぜか初対面から何となく心を通わせられるような雰囲気がした。
その後、週に一度、3月間ほどの付き合いが続いていた。
付き合いといっても趣味の会の場所でだけで、
お茶を飲んだり、その人の家に行ったりしたことはなかった。
でも、時折ラインで親しく連絡し合っていた。
私が彼女の町へ用事があると伝えると、
帰りに家に寄ってくれという返事が来た。
招待までとは意外だったけれど、思った通りの気さくな人だった。
最近は自宅に人を呼ぶことも少なくなって、
相手の家を訪ねることも滅多にない。
玄関までは行ったとしても靴を脱いでお邪魔することはない。
久方ぶりの他人の家訪問になる。
私は嬉しくて、もちろん快諾した。
用事が済み、教えられた道順で彼女の家に向かうと、
国道の歩道に立っている彼女の姿を見つけた。
そこからは分かりにくいらしく、外に出て迎えに来てくれたようだ。
彼女を助手席に乗せ、畑の目立つ裏道に入る。
住民にしか分からないような迷いそうな小道だった。
奥まった道のさらに奥に英国風の大きな家があった。
ピカピカに磨かれた玄関からリビングに通されると、
ただただ唖然と驚くばかりだった。
部屋にはヒノキのテーブルと大きなソファ、大型テレビ、
それ以外細かなモノが一切ないのだった。
電気のコード一つない。
きっと全て収納されているのだろう。
部屋には大きなクローゼットがある。
私が来るまでの間、丹念に掃除したに違いないが、
ここまで何も置いていないのはホテルの部屋以外の何物でもない。
小一時間ほどケーキを呼ばれながら歓談した後、
幾つかの部屋を見せてもらい、
にこやかな彼女に別れを告げて家路に向かった。
そして、車の中で足の踏み場もないわが家も、
あんなふうにきれいに整頓しなくては。
とにかくそのことで頭がいっぱいだった。
(写真 わが家のデスクの足元はコードが絡み合っている)