段ボールの中だけで暮らすヒヨコ達が気の毒で、
庭仕事をしている間、土の上で遊ばせていたら、
大変な事件が起きた。
作業を終え彼らを家に戻そうとした時、
3匹目のヒヨコを長靴で踏んでしまったのだ。
私が足を上げた時に、
そのヒヨコが運悪く私の足元に走ってきたのである。
ぐにゃとした感触と共にヒヨコの悲鳴が聞こえ、
靴底の下に二つの羽が広がっていた。
一番小さなそのヒヨコはペンギンに似た愛らしいクロだった。
真っ青になった私は断末魔のクロを掌で握りしめ、
そのままじっと動かさなかった。
クロは掌の中でびくともしない。
動かさなければ傷が広がらないと素人考えで思ったのだ。
他の2羽は元気に段ボールハウスで元気に歩き回っているのに、
クロは私の掌の中であの世に向かう最中だった。
たったの一週間で去っていくのか。
それも私の思いやりから来た不注意で。
最後は仲間と一緒にと思い、
まだ温かいクロをハウスにそっと入れてやった。
すると、私に全身を強く踏まれていたはずなのに、
クロはピヨピヨと力のない声を出し、ぐったりと座った。
確かにまだ生きている。
もしかしたらと一縷の可能性を期待して、
私はずっとそんなクロを見つめていた。
クロは瞳を閉じて寝ているような恰好をしていた。
相当の痛手だったから回復は難しいだろう。
いつもなら餌を突っついて、
他の二羽と共に歩き回っているのにと思うと、
クロに「ごめんね、ごめんね」と何度も謝った。
クロはそれに応えるようにピピピと鳴いた。
動物は水と餌を食べなければすぐに死ぬ。
それが定説だ。
そう思い、クロの嘴に何度も水を含ませてやったが、
喉の中に入れている様子はなかった。
しばらくしてクロの口にスイカの白い部分を差し出した。
他の2羽が飛んできてそれを奪い去り、
スイカが好物なのが分かった。
スイカなら水分も多く食べ易そうだ。
どうにかして40g足らずの小さなクロの命を助けたい。
でも、クロは嫌がっている。
どのぐらいの時間が経っただろうか。
じっと瞳を閉じたり開いたりしていたクロが、
私の指にくっついた1ミリほどのスイカを舐め、
少しだけ両足で立とうとした。
内臓破裂だったらこんなことはあり得ない。
スイカさえ食べてくれれば、復活するかもしれない。
私はスイカを指先にくっつけ、
クロの前に何度も何度も差し出した。
すると、うっすら目を開けながらクロはスイカを突つき、
ついに喉の中へ入れた。
「やったあ!奇跡だあ」と私は思わず叫んだ。
「クロちゃん、頑張れ」と言い続けてきた私に、
その願いに応えるように食べてくれたのである。
夕方になると少し歩くようになった。
足もやられていないらしい。
スイカ以外の飼料も時折口にするようになった。
今夜がヤマだよ、クロちゃん、頑張れ!
今夜さえ生き延びればと、
祈るような気持ちで段ボールハウスに毛布をかけた。