人間関係には義理というものがある。
「義理と人情」などという言葉は昭和までの話で、
今の日本ではほとんど死語に近い。
合理的な考えが主流になってからは、
自分に利をもたらさない他者に対して、
無理をしてまで合わせない。
つまり、義理は必要ないからだ。
それでも、やはり、人間社会には「付き合い」程度の義理があり、
それが人情というものだろう。
多分、今日のランチ会食がそれに当たるのではないか。
今日は趣味のクラブで知り合った人に、
帰り際に「一緒に食事はいかが?」と誘われたのだ。
仲良く付き合っている友人も合流するらしいけれど、
誘ってくれた人とは個人的に話すのは初めてのことだった。
だが、そのうちの一人は私の所属する器楽クラブの演奏会に、
仲良しの彼女に誘われて観客として足を運んでくれたのだ。
趣味でもないのに来てくれたのだ。
家に帰ればお昼の用意もしてあるのだけれど、
義理を返すのも浮世の義理なのだから快諾したのだ。
何より親しくもしていないのに、
声をかけてくれたことは嬉しいことに違いない。
ランチが出来上がるまでの長い間、
彼らのお喋りを聞いていた。
どうやらこのグループは毎週ランチ会食をしているらしい。
彼らが行ったあちこちの食べ物屋の話や趣味の会の仲間のこと、
それに子供の頃のこの町の様子などを話す。
時々、よそ者の私にも話が振られたが、
共通点が少ないので長く続かず、聞き役専門だった。
こうして地元で生まれ育った人たちのお喋りを聞いているうちに、
私はこの町のジグソーパズルを埋めていっているようだ。
この店のランチは味も良くボリュームもある。
時計を見たら食べ終わった時間は、
店に入ってから1時間以上経っていた。
何しろ私は何も知らないストレンジャーなのだから、
決して時間やお金の浪費ではない。
たまにはいいと思っている。