3月に他県の初めての山を友人と共に訪ねた時、
その時知り合った女性をわが家に宿泊してもらい、
こちらの有名な山に案内することにした。
見知らぬ土地で不安がっていた私たちを最後まで先導し、
色々と現地の説明も付けカイドしてくれたので、
たった2時間ほどだったけれど、その親切への私なりの返礼だった。
「袖触れ合うも他生の縁」だと思い、別れ際に連絡先を教え、
「気が向いたら寝床は山小屋程度ですが泊って下さい」と、
私はその人に念を押すように言っていた。
そんな気運が通じてか、
その人も私と同じような感性を持っていて、
現実にその言葉を受け入れて連絡してきたのである。
ひと月後辺りに彼女がショートメールで連絡してきて、
「5月の晴れた日に伺いたい」とあった。
一緒に行った私の友人は、
初めての人を泊めるなんてお人好しだと言い、少し呆れ気味だった。
でも、恩には何とかして報いたい。
普段散らかっているリビングやトイレを丹念に掃除して、
仲間が来た時に泊まる玄関の小部屋に登山用ソロテントを張って上げ、
私のシュラフを入れて宿の準備をした。
駅で対面し、名前を名乗りあらためて挨拶した。
立ち振る舞いや言葉がとても丁寧な人で、私よりはるかに若かった。
顔も忘れていたので初対面と変わらない。
スーパーで安くなった生寿司などを二人で各々買い物し、
わが家の食卓に広げてくつろいだ。
私はビールを飲みながらだったが、
その人はお酒は飲まない人だった。
それでも、世の中に対しての価値観が似ていて話が弾んだ。
その方も遠い九州の出身だとあの時に聞いていた。
かの地は土地柄なのか旅人にはひどく親切だ。
友人は関東では「見知らぬ人は泥棒と思え」と言われ育ってきたと笑うが、
駅に駆けつけてくれて再会し、その人に礼を言っていた。
大抵の場合、「いつかどうぞ」などと言うこうしたことは、
知人に対してもリップサービスの場合が多いけれど、
私は言葉には魂があると思っているため、
自分が口に出したことは絶対に守る。
それは、見知らぬ人にだって同じだ。
だから、素晴らしい思い出を残してあげたい。