慌ててチェックアウトしたキャンプの帰りのことだった。
その日は長い連休のせいと好天のせいもあり、
近くの道の駅は車が列を作って大賑わいだった。
そこでランチにしようと思っても、広い河原も人がいっぱい。
店でお土産とアイスボックス用の氷を買っただけで、
すぐにそこを退散した。
途中でどこか道に入れば静かな公園などがあって、
私の場合、大体そんなふうにして車旅では休み場所を探す。
運よくほどなくして国道を逸れ、
林道らしき道を見つけ上っていった。
小さな集落を過ぎ、細い道を上りつめていると、
何やら聞いたことのないの山の登山口標識があった。
そこでランチを済ませていると、
地元民と思われる猟師風の人の車が来たので、
声をかけて山の名前を聞くことにした。
すると、話好きらしいその人は、
ここらの山のことを詳しく教えてくれ、
別れ際にはワラビが採れる場所があるから行くようにと熱心に勧めるのだった。
しかも、掘ってきたばかりのタケノコも持って行けと差し出された。
世の中には他人と関りを持たないという人が大半になったが、
こんなふうにお喋りをして、かつお人好しな人も健在だ。
私も知らない人と関りを持つことこそ、
人間の人間たる所以だと思っている。
おかげで、その人の勧めた場所で、
ふた抱えもあるワラビを採ることができた。
林道の別れ際に彼の名刺も頂いていたので、
すぐにお礼の電話を入れた。
すると、下で待っているから今度は自分の山を案内すると言う。
ワラビはたくさん採ったのでそのまま帰りたかったけれど、
人懐こいその人の善意を無視するわけにはいかなかった。
再び今度は軽トラに先導されながらクネクネの林道を上る。
そして、杉林の斜面にポツポツと残ったワラビを頂いた。
お礼を言って別れると、車の窓から顔を出し、
「今度は俺の山でキャンプしろ、無料だからな」と何度も言うのだった。
「人を見たら泥棒と思え」という言葉もあるけれど、
そんなことは滅多にない。
こんな人も健在で、他人と関りを持っても問題ないのだ。
「袖すり合うも他生の縁」である。
それにしても淋しい山間に住んでいなくても、
旅人との交流は一つの刺激、喜びなのだと思う。
きっとそうに違いない。
(写真下 おかげで山菜うどんを堪能できた)