小田原から伊豆箱根バスを待っていると、
案内の女性が本日の予定になっていた、
駒ヶ岳ロープウェイが臨時休業していることを教えてくれた。
そのため急遽停車駅を変更しなければならなくなった。
バス停の縁石に座り、朝ごはんの鯵のチラシ寿司を開け、
さて、どうしたらよいものかと悩んでしまうが、
ここらの地理は全く不案内で想像もつかず、
経験豊富なリーダーに任せることにする。
初めは空いていたバスだけれど、途中で乗客がどんどん増えていった。
そのほとんどがインバウンドの外国人で、
運転手は流ちょうな英語で彼らの質問に答えていた。
コロナ騒動がなぜかしら明けたらしいので、
再び以前の有名観光地の活気を取り戻している様子だ。
バスは箱根湯本駅を過ぎると、
近代化遺産的な風格ある温泉旅館の目立つ家並みを通り、
その後はくねくねと続く山道を上がっていく。
どうやら箱根駅伝のコースを上がっていってるらしい。
小田原からの5区21キロは高低差800メートルというから、
ここを走るのはさすがにきついだろう。
平地10キロを走ったことのある私としてはその大変さは想像できる。
思えば江戸の昔は足を使って町から町へ移動したのだった。
豊かな人は籠に乗ったかもしれないけれど、その籠ですら人力に過ぎない。
どんな時代も箱根駅伝の選手のように選び抜かれた健脚者がいて、
信じられない速さで急峻な山道を走ったのだろう。
今と違い、補給も貧相だから足のばねと持久力と精神力の凄さに驚く。
右手の車窓には緩やかな稜線が続き、先の方にピークが見えている。
地図を見るとどうやら明神が岳という名の山のようだ。
どこか聞いたことのある響きだ。
旅先で知らない山を見ると、その名前を知りたくなり、
いつかそこを歩いてみたいと強く思う。
今度あの山に行くためにこのバスに乗ろう。
昔の飛脚の苦労を思えば登山口から山頂など軽いものだ。
まだ冬枯れの木々に覆われた薄茶の山々を眺めながら、
そんなことをつらつらと思っているとバスを降りる時が来た。
そこは早雲台というロープウェイのあるバス停だった。