町を歩いていると、古い建築に目を奪われることがある。
それらはゴジラの時代の昭和30年代に流行った、
日本風ではなく西欧風の作りだ。
その手法は主に商店街で流行って、
今も古い通りには当時の名残がある。
主に通りの側を西洋風に作ったいわゆる「張りぼて」が多いけれど、
中には木造全体を石造りふうに見せたものもある。
それほど西洋が憧れだったのだろう。
まさしく仮想空間である。
今日、町を歩いて横丁に入っていったら、面白いアーチが見えた。
その先には蔦で覆われた古い建物がある。
近づいてみると中は廃屋ではなく、
何がしかの店が営まれているような雰囲気もした。
きっとこの建物を残すことに力を注いでる人がいるのだろう。
ヨーロッパの街並みは石造りの家が多く、
石ということもあって日本のように建て替えということは余りない。
石の堅牢さが歴史を刻み、味わいのある風景を作る。
日本の場合、殆ど木造のため庶民の家々は、
半世紀ほどで建て替えられ景色が変わっていく。
もちろん、時の権力で建てられた古寺などは、
本来の木造の強さを現代に示しているけれど、
それは庶民のものとは無縁である。
今日出会った建物も石ではなくて、
モルタル作りの安普請のものだと思う。
それでも、その古さが時を刻み、独特な味を出している。
この建物はどうやら映画館だったようだ。
アーチにその名がうっすらと残っていた。
立ち止まって眺めていると、
この通りに集った人々のざわめきが聞こえてくるようだった。
それはもう、二度と見られないこの国の町の風景に違いない。
この建物は、時に抗いながら私を待っていたような気がしてならない。