12月4日 平戸 ⑥
ゲストハウスの前に海が広がっていた。
早く目が覚めたので少し散歩をすることにする。
海べりは夏は海水浴場で賑わうのか広い駐車場になっていて、
水道やトイレもある。
そこに私と全く同じ車が止まっていた。
あまりない車なのでこんなところで会えて妙に嬉しくなった。
リアの空間に面白い工夫がしてある。
親しく声をかけると、釣りの格好をした若者がにこやかに応じてくれた。
彼は釣りの趣味のために、
便利になるようなアイディアを考え出したという。
その一つ一つを嬉しそうに説明してくれた。
そして、これからあっちの堤防で釣りをするので、
体験してみたらと言ってくれた。
どうやらここは面白いほど釣れるらしい。
宿の朝食を済ませ、チェックアウトをした後、
先ほどの彼が教えてくれた堤防に向かった。
岸壁は強風でしぶきがかかり、少し怖かったけれどすぐに慣れた。
よくよく考えると、私は海の町で育った子供なのだった。
若者はもう100匹ほどアジを釣ったと言った。
小さな豆アジがバケツの中で動いていた。
私に釣ってみるように勧めてくれたので竿を持つ。
右手に何かが感じられ、針に魚が食らいついていた。
釣りをするのは初めての体験で、魚が釣れたのも初めてのことだった。
バケツに入った餌のアミを柄杓ですくいながら、
若者は今夜は父の誕生日でアジの南蛮漬けを作るという。
しばらく堤防で遊ばせてもらい、別れを言うと、
お土産に魚を袋一杯入れてくれた。
とても気持ちの優しい人だった。
彼が動画をアップしているというので、チャンネル名を聞く。
今日の釣もアップするというので、
私は必ずコメントを入れると約束して別れた。
それなのに、私の記憶が曖昧になり、
宿に戻った夜、彼のチャンネルを探すことができなかった。
コメントを入れると言ったらあんなに喜んでいたのに、
とても申し訳ないことをした。
その場でメモすべきだったと後悔している。
きっとずっと悔やまれるだろう。