12月2日 ②
路面電車の始発駅は小さな川のそばにあり、
昔はこの川べりに小説『泥の河』を連想するような、
たくさんの家が張り出していて川の水はヘドロ水だったが、
すっかり撤去されて水も市街地としてはそんなに濁っていない。
そこからほんの少し歩くと赤い色をした崇福寺という名の寺に着く。
この寺の門は国の重要文化財であり、境内に国宝の建物が二つもある。
黄檗宗のお寺で中国のお盆の時は華僑の子孫たちで大変賑わうところだ。
時間ができるようなら、中に入って国宝の建物と門を見たいと思っていた。
でも、見物している暇はなかった。
そこから山際の裏通りに入ると、ずっと斜面に墓を持つお寺が続いている。
中には国宝の興福寺というのがあって、
コロナで解禁された修学旅行生が教師の注意を受けていた。
この町は山だらけで平地はすべて埋め立て地である。
山とは言っても墓の続く石段を登ると、
家々が斜面に張り付くように建っていて、
上まで行くとバス通りがあったりして、
平地から訪れた観光客は驚くに違いない。
坂に建つ家々は車を横付けにするなどありえず、
そのため若い人口は流出してしまう。
でも、この傾斜のある町の風景はそれだけでも情緒があり、
異国に舞い降りた感じがしてならない。
坂の町だから道は当然石畳となるが、
その多くがもう私の知る昔ながらの味わいのあるものではなかった。
これも時の経過がそうさせたのだ。
人は暮らしのために地形すらも変えてしまうのだから、
地面を張り替えるなど簡単なのかもしれない。
パリのカルチェ・ラタンは学生運動の最中、敷石が剥がされ凶器となり、
今はアスファルトも多い。
この長崎も例外ではない。
辺りにはこじゃれた店が並び、それぞれ個性を出している。
一軒一軒立ち寄って、何かしら買物をしたくなる。
湯気の立つ豚角煮饅頭、甘みたっぷりのカステラや高級品のカラスミなど、
名産品も多くて自分へのお土産にしたいものだ。
さて、今日は先祖のお墓参りだ。
寺町通りには昔ながらの溝が健在していて嬉しい。
カメラを構えてばかりでなかなか足が進まない。
その後は東シナ海の夕日を見に行く。
だから、急がなければ。