『デス・ゾーン』という本を読んだ。
この本は7大陸最高峰を完登しようとした栗城史多という若者の行動を、
作者の主観や取材による情報で分析したもので、
開高健ノンフィクション賞を受賞している。
作者は北海道放送のディレクターをしていて、
長い間、栗城を密着取材していた。
副題に『栗城史多のエベレスト劇場』とある。
この「劇場」という言葉は死者には辛辣な言葉だと私は思った。
私はこの栗城という人が高い山に登りながら自分の顔を写し、
世界中の人とネットでやり取りしているテレビ番組を見たことがある。
苦しそうに喘ぎながら「みんなで夢を共有しよう」と呼びかけていた。
表情が嫌みのない人で愛らしかった。
そのドキュメンタリーはとても感動的で、
ほとんどの視聴者は彼に声援を送ったに違いない。
私もそのひとりだった。
彼は7大陸最高峰の最後のエベレストに単独無酸素で挑み、
何と7回も失敗し、凍傷で指を失くし、8度目には最難関のコースを選び、
そして、あっけなく死んでしまった。
作者は一つ一つベールを剥がすように栗城史多という人物を暴いていく。
読み手は恐いもの見たさにどんどんページを開かざるを得ず、
作者の真贋の力には敬服した。
とはいえ、作者は「彼は何者だったのか」と問うている。
栗城史多の本当のことは分からなかった。
この本を読んで、栗城史多像が大きく崩れてしまった。
私は本人自身も分からなかったのではないだろうかと思っている。