出先の町で車に追突された。
信号のある交差点で右折しようと減速していたら、
突然後部にドスンと衝撃を受けたのである。
ぶつけた人が慌てて降りてきて駆け寄り、
「すみません。よそ見をしていました。身体は大丈夫ですか?」と、
すまなそうに言った。
私も驚いていたので焦ってしまい、何が何だか分からない状態だった。
でも、とりあえず車の通りが激しいので、
震える手でハンドルを握りながら脇道に移動する。
こんな時、冷静になるのは難しい。
お互いにすぐに警察を呼ぶこともせず、
互いの車の凹み具合を見たりして焦るばかりだった。
ガックンと衝撃を受けた頸椎はさして異変を感じなかったので、
物損事故扱いで良いと私は言った。
その人はホッとしたようで、
とても申し訳なさそうに何度も頭を下げた。
いかにも感じの良い人でかえって気の毒だったけれど、
それでも、警察に事故証明をしてもらわなければならない。
むち打ちは遅く出てくることもあるという。
私のディーラーもそうするように言った。
軽い事故のせいか、警察官が来るのが遅くて、かなり長い時間待った。
待っている間も私の身体はずっと震えていた。
その人も落ち着かない様子で、
保険屋さんやディーラーの人と電話で話していた。
話していないといられない様子だった。
ふと道の脇に目をやると、公園の大きな花梨が落ちているのが見えた。
拾い上げると深い秋の良い香りがする。
その実の匂いを嗅いでいると、
もしも、この人がスピードを出して私の車にぶつかっていたら、
今頃私はどうなっていたのだろう。
そう思うと、黄色い花梨の実を普通に手に取る自分が嬉しかった。