先週に続いてどうしても山のお花を見たくて、尾瀬へ出かけてきた。
以前なら駐車場から登山口まで1時間かかって歩いて行ったのだけれど、
最近は低公害のワゴン車が30分ごとに動いているので、
当然のようにそれを利用した。
料金は700円也、駐車場の山小屋も閉鎖してしまい淋しくなっているから、
これも一つの経済効果になるだろう。
親切な運転手さんに帰りもよろしくと伝え、
登山口のゲートを抜ける。
懐かしい名無しの滝が尾瀬の雪解け水を白く激しく泡立たせている。
峠への道を登るとほどなく下っていくのがここの特徴だ。
まるで外輪山の底のようになっているのが尾瀬だった。
五月なら残雪の風景をたっぷり楽しめるけれど、もう六月だし、
今年は雪が少なく湖の向こうの山に白い一筋を残す程度だった。
水芭蕉の花の盛りを過ぎていたせいか、
日曜日だというのにこちら沼側の道はとても静かだった。
梅雨の合間の晴れ間で風も少なく絶好の日より。
湿原特有の様々な花はこれからのようで、そんなに多くは咲いていない。
薄紫のミヤマリンドウ、咲きかけたハクサンチドリ、
大型の白い穂のようなバイケイソウ、それに水芭蕉などがあった。
私は反時計回りに沼を一周したのだけれど、
反対からやって来る人は3時間余りの間に10人足らずだった。
その交差に建つ広いデッキを持つ休憩所も閉鎖されていた。
都会から大型バスの通う峠の方はいくらか人が多いだろうか。
それにしても、ひと頃の尾瀬と比べたら何と人が少ないのだろう。
ネットが日本中のあちこちの情報を隈なく教えてくれるので、
尾瀬のようなあまりにもポピュラーな場所にかえって足が向かないのか。
それとも、水芭蕉が終わると次のニッコウキスゲまで用がないのか。
そんなことを思いながら微動だにしない湖面を見つめる。
水面の鏡に木々が影を落とす光景はずっと見ていても見飽きない。
自然の中にいるとただただ心が癒される。
朝が早かったため、湖を一周してもまだ10時頃だった。
ここからは来た道を上がっていく。
濡れた木道を注意深く歩き峠に上るとそこから先は下りだ。
途中の水場で明日のコーヒー用の湧水を頂き、登山口へ戻った。
一ノ瀬の休憩所の前には朝に乗ったバスが待っていた。
客も少ないのに朝から30分置きのピストン運転をしている。
私は申し訳ないと思いつつも運転手のおじさんに、
「早いので歩いて帰りますね、ごめんなさい」と自分の気持ちを伝え、
昔ながらの川沿いの道を歩いた。
尾瀬の経済効果に貢献しなかったという苦い思いが少し残るが、
以前は往復とも歩いていたのだから、歩いて登山口に戻りたい。
その気持ちがとても強かった。
誰一人いない旧道をクマよけの歌を歌いながら歩き続ける。
すると、小一時間経った頃、
山道を横切る小沢に濃いピンクの花が目に入った。
私は声を出して喜んだ。
「クリンソウだあ!」
それは、道とも小沢ともいえる小川に沿って数メートル続いていた。
今年はこの花に会いに行っていなかったので、
とても気になっていたのだった。
バスに乗っていたら出会えなかったと思うと、
自分の判断が正しすぎて小躍りしそうになった。
運転手さんに自分の気持ちを伝えて良かったと思う。
(写真 こんなに小さな水芭蕉 たいていは大きい)