去年の初冬に初めて行ったソバ屋に今日は友達を案内した。
昔ながらの大衆食堂が好きそうな彼女だから、
きっと満足してくれるだろうと思ったからだ。
前回は店に初めて行ったのに、
人懐こい奥さんが食後にお店について色々と話をしてくれたっけ。
その感じがとても好印象で憎めなかったし、
何より食事が安くて美味しくて、満足のいくものだったからだ。
白い暖簾の下がる引き戸を開け狭い店内に入ると、
店の様子が少し変わっていた。
前回見た壁にずらりと並べられていたお品書きがなくなっていたのである。
あの古めかしい札を見せたかったのに残念だった。
お昼をかなり過ぎていたけれど、
常連さんらしい男の客がまだ二人ほどいた。
友達には前に頼んだことのあるチャーシュー麺を注文してあげ、
私は品数の多いメニューの中から焼肉定食というのを選んだ。
それに、一品物の天ぷらを一つ追加してみた。
焼肉定食にはボリュームのあるタヌキそばがついていて、
ご飯はかなりいっぱいだった。
友達のラーメンには分厚いチャーシューが何枚も乗っかっていた。
天ぷらをさらに食べるともうお腹がパンパンになった。
お茶を飲みながら歓談していると、もうお客はいなくなって、
店の奥さんが厨房から出てきた。
前回同様、お喋りタイムだ。
壁のお品書きの札は今、書き直しているという。
友達の住んでいる町にも詳しく、話好きの彼女も楽しんでいた。
お茶のお替わりが済むと、
店の奥さんが今度はコーヒーメーカーを持ってきて、
「コーヒーはいかが?」と言ってきた。
そのコーヒーがとても美味しくてびっくりした。
我が家がいつも使っている豆とは大いに違う良い豆だった。
こんな美味しいコーヒーをサービスしてくれるなんて頭が下がった。
帰り際に「コーヒーは今日だけのサービスにして下さいよ」と、
私が言うと、「気にしないで、私が勝手にやってるだけだから」と恐縮された。
初来店の時も感じたけれど、今回はなおさら本当に良い人だと思った。
店の外に出ると、何やらふたりともホッコリとした気持ちになった。
蕎麦屋の奥さんに商売ではない優しさを強く感じたからだ。
「楽しかったね、ご馳走さま」と友達も満足げだ。
また食べに行こう。