新しい年が始まった。
新年を迎える高揚感は年々薄れ、
コロナのこともあってますます味わいのない新年となっている。
今年はどこにも行かず、誰も来ないし、
お節を作るのはやめようと思ったけれど、
大晦日になって気が変わり、真似事程度のお節を作った。
いつもなら元旦には台所仕事などしないけれど、
昨夜のお節がまだお鍋に入ったままで未完成だったので、
早朝から盛り付けにかかった。
正月用の器はもう重箱ではなく、我が家ではとっくに大皿となっている。
大皿の方が盛り付けが簡単だから。
出来合いの黒豆を買ったのは初めてで、その少ない量がちょうど良かった。
朝はお雑煮とお節を食べ、
山上の広場で今年初のお節風アウトドアランチを済ませると、
来た道に戻らず先に進んで、ぐるっと回って車に戻ることにした。
別の場所へ下ってもたかだかここは小さな丘陵地だと思い気にもしなかった。
ところが、滅多にそこには行かないので、しばらく進むと分岐点が分からなくなった。
今しがた下ってきたゴロゴロとした石の続く急坂を戻るのは嫌だったから、
どうしようか迷ってしまった。
その時、親切な若い女性が後ろからやってきて、
.彼女の後をついて行けば間違いがないと思われ、ついて行くことにした。
彼女も話がしたかったのか、のんびり楽しく喋りながら歩いた。
私は遅ればせながら正月飾りの松の枝を探したりした。
そのためか町に下りた頃はひどく薄暗くなっていた。
そこから車を置いた場所に着くにはどうしたらよいかよく分からなかった。
若い女性は自分が誘ってもいないのに責任を感じたようで、
一緒に車のある所まで歩くと言ってくれた。
何とも心強いではないか。
出合った人に道を尋ねながらやっと出発点の駐車場に着いた時には、
日がすっかり落ちてしまい、西の空が茜色に染まっていた。
駐車場まで1時間もかかっていたのだった。
私の計算が甘かったのだ。
「あっ! 初夕日!」と私が叫ぶと、
彼女も大きく目を開いて「きれいだあ!」と嬉しそうに言った。
金の帯のような夕日と透き通った空をしばらく眺める。
彼女は大通りに着くとそこで車から下りた。
自宅はとても込み入った場所にあるから、また私が大変だというのだった。
走り去る姿を見ていると、
「人に与えた恩は水に流し、人から受けた恩は石に刻め」
という格言が頭に浮かんだ。
世の中みなこうあって欲しいものだ。
新年早々良い思い出ができて本当に良かったと思う。