先日、食器戸棚の整理をしていたら、
モロッコのスーパーで買ったクスクスがあった。
クスクスとはスパゲティと同じ小麦粉で作られ、
砂粒のように細かくて世界最小のパスタと言える。
前にレンタルビデオ店で『クスクス粒の秘密』という、
映画を借りて見たことがある。
内容は、フランスに住むマグレブ系(北アフリカのモロッコ、アルジェリア、チュニジアなど)の大家族の物語で、
日曜日には元母親の作るクスクスを楽しみにして集まってくる。
映画はほとんど食卓での会話で、
何気ない会話の中でも、家族それぞれの深い苦悩が随所に現れるようになっている。
彼らはいわゆる移民でフランスでの身分も恵まれておらず、
何かしら鬱屈しているのだった。
それを見てから名前しか知らなかったクスクスという料理に興味を持ったけれど、
実際に本場で食べてみると、とても私の口には合わないものだった。
体調も悪かったこともあったが、
そのザラザラとした食感が保守的な私の舌を縮こませたのだ。
でも、この日は前日に牛の塊で作ったシチューが、
モロッコのタジン料理のような味になったので、
それとコラボしてみようと思いついたのだった。
何となく旅の気分が甦り、作るだけでも心はワクワクした。
料理にも変化が必要なのだ。
粒状のクスクスをボールに入れて、
オリーブオイルを少しまぶし、熱湯で浸す。
そのボールごとしばらく湯煎にすると、粒は柔らかく蒸し上がる。
お皿に入れたクスクスに牛のシチューをかけて出来上がり。
あっという間である。
砂漠の国は水が貴重だから、
少しの湯で調理できる粒状のパスタが日常食になったのには納得がいく。
映画の家族にとっては欠くことのできない故郷の味なのだ。
ネイティブ言語ならぬネイティブ食である。
お皿に盛ったクスクス、やはり、粒々が口には合わなかったけれど、
シチューを多めにかけたので、一粒残らず胃の中に納まった。
『クスクス粒の秘密』、また借りてきて見てみようと思っている。