新しく出版されたヴァチカン美術館の分厚い写真集を開いていたら、
数年前のローマの旅のことが懐かしく甦った。
歩いたりバスで行ったりしたフォロロマーノ、コロッセウム、
あの時の旅はツアーと言えど、ほとんどがフリータイムだったため、
お仕着せのガイド付き観光はヴァチカンだけで、
とても心に残る旅となった。
訪れたすべての場所を覚えているし、
オリーブの木を揺らす風の音も思い出す。
だが、そのヴァチカンだが、大きな悔いが今も残っている。
実は美術館とコンクラーベ(次の法王を選ぶ儀式)のある礼拝堂はじっくりと見学したのに、
その後行くべき有名な『ピエタ』のあるサン・ピエトロ寺院に入るのを、
すっかり忘れていたのだった。
礼拝堂を出たらすぐに寺院の入り口なのに、
美術館とシスティーナ見物が、
長年の悲願だったから頭が空っぽになったのだ。
そのことを思い出したのは宿に帰ってからのことで、時すでに遅しだった。
ヴァチカン観光はガイドがいると長蛇の列に並ばなくて済むけど、
個人だと時間がかかるので、短い旅の間リベンジは無理だった。
そんなせいで、いつかサンピエトロ寺院に行こうと強く思っていた。
今度こそじっくりと見忘れた建物内部を観光し『ピエタ』を鑑賞したかった。
その時はテルミニ駅から特急に乗ってミラノやフィレンツェにも行こう。
そんなことを考えていた。
でも、どうだろう、海外の旅など今後何年もできないかもしれない。
世界では毎日6万人ほどの人が新型肺炎にかかっている。
日本もまた感染者が増えてしまい、県をまたぐ移動も危険視されてきているのだ。
私のリベンジ旅の夢はあっさり諦めるしかない。
そんなことを思いながら本を閉じた。