上野で開催されているゴッホ展に行ってきた。
これまでに彼の展覧会は必ず行っているし、
有名な絵はほとんど見たので、それほど期待していなかった。
でも、今回の展示品は彼の初期のものが多く、
記憶が合っているとしたら初めて見るものが多かった。
初期のものは印象派に影響された後のと違い、
それまで絵画界に乗った暗い色合いの絵画である。
今回はゴッホらしい色鮮やかな激しい筆つかいの油絵は数枚しかなく、
初めて彼に触れた人にとっては物足りないかもしれない。
でも、私があらためて感じたのは彼の精神性の特質だった。
彼は人物画においては対象者の内面を描こうとしている。
そのため農民や働く人の表情は重い。
その暮らしぶりや苦悩までが表現されている。
人物の場合は顔の表情があるから、
その印象は風景画とは大きく異なる。
当時、そんなものを描いたところで売れるわけはなかっただろう。
人が絵画に安らぎを求めるとしたら、
苦悩を描く絵など壁に飾りたくはない。
風景画の場合、たとえば、麦畑の平和な光景を見ても、
それを描いている作家の心を知ることは難しい。
彼は文章を多く残しているので、
それによって描く側の心を覗くことができる。
彼の苦悩を知ってしまうと、
明るい日差しの農村風景も違って見えてくる。
そのあまりのドラマチックな人生のおかげで、
彼の人気は没後高まった。
観衆は彼の絵画に何を求めているのか。
やすらぎ?精神性?高価な絵への好奇心?
ひとりひとりに聞いてみたい。
私の場合、彼の生き方に驚き、その苦しみに感動し、
嫌いだった彼の絵を好きになった。
もし、「ゴッホの手紙」という本がなかったら、
きっと今も好きではなかったかもしれない。