寝室の掃除をした。
実はひと月ほど前のこと、
世の中でいちばん苦手な大型のあの黒いやつが、
どこからか飛び出してきた。
びっくりした私は思わず近くにあった花瓶をやつに被せた。
直径7センチほどの丸い陶製の花瓶だった。
丸い花瓶の底は多分5ミリほど凹んでいて、
その隙間にそいつを閉じ込めたのだ。
なぜか凄い早業で成功したものだから、
我ながら驚いたものだった。
それからというもの床に置かれた花瓶には異様な存在感があった。
それは、決して持ち上げてはならないものになった。
昼間は忘れているが、寝るときには目の前にあるので、
空間にやつが目を光らせていると思うと戦慄した。
映画「アバター」では、
主人公が襲いかかってきた珍獣?を一瞬で殺したことを
相手役の女主人公が褒めていたっけ。
でも、花瓶を起こしてやつに留めを刺す勇気はなかった。
ひと月も過ぎようとしている今日、もう潮時かと思った。
撤去しなくては。
「ごめんね、長いこと苦しませて」と、
罪滅ぼしの言葉をつぶやきながら、
禁断の花瓶を少しだけ持ち上げた。
すると、びっくり仰天とはこのこと、
何とやつは何一つ衰えておらず物凄い勢いで部屋を走った。
ひと月もの間、飲まず食わずだったのに何てこと。
狭いから運動もできなかっただろうに。
よくよく考えると、
人間が地球に出現する前から彼らは生きていた。
だから、水も食料もなくても不滅なのだ。
私はシヨックで座り込んだ。
花瓶のあった位置には、
やつが生きるために格闘したフンの跡があった。
どうしよう‥