土砂降りの中、用があって知人の家まで車を走らせた。
朝から雨が間断なく続いていて、本格的な梅雨に入ったようだ。
その人の家は一駅離れたところにあって、
私が訪れるのは初めてのことだった。
彼女とは携帯電話で済む程度の付き合いしかなかったから。
電話で場所を聞きながら移動しているのに、
どうやら道が複雑すぎて何度か間違ってしまった。
田園の中に昔からの集落があって、
彼女の家は緑に囲まれた奥まったところで道路から見えなかった。
傘を差して通りに出て来ていた彼女に促され、
古い日本家屋風の家に上がることになった。
玄関はわが家のと比べると3倍ほども広く、
この家が建てられた頃に流行った作りつけの豪勢な下駄箱が鎮座していた。
もちろんその先は広い廊下になっていて、部屋が幾つもありそうだった。
彼女は笑いながら、
「断捨離してるんだけど、無理そうでしょう」と言った。
「どこも同じですよ」と私は応えた。
天板がしゃれた格子作りの和室の居間でしばらく歓談し、
手製の漬物を頂きながら、用事を済ませた。
旅行のことや今時のスマホのことなど話題になって、
小一時間ほどお邪魔していた。
外はまだ強い雨が続いていて、
雨樋から滴り落ちる雨水が、バケツに勢いよく跳ねていた。
帰りしな知人は新聞紙に包んであった花束をお土産に持たせてくれた。
ピンクの百合と真っ白なナナカマドの花だ。
私も友達が来たとき、お花があったら花束にして持って行ってもらうから、
彼女もそうなのだと思うと嬉しかった。
そして、近くの親類の庭から拾ってきたという杏の実を一袋車に乗せてくれた。
私が事前の電話のおしゃべりの中で杏が好きと知って、
泥にまみれて拾って来ていてくれたのだ。
私は丁重にお礼を言い、彼女の家を出た。
個人的なことはよく知らなかったけれど、
人ってそれぞれの暮らしがあるのだなあと思うと、
つくづく訪ねて行って良かったと思った。
さて、この杏で何か作ろう。
今日のお礼に届けよう。
そんなことを思いながら家路についた。