電車に乗り込むとボックス席のある素敵な車両だった。
関東の電車に慣れ過ぎているせいか、
背もたれの色も模様も新鮮で、ハイカラな電車に思える。
停車する駅も生まれて初めての駅だけど、
どこかで耳にしたことのある地名が旅心をくすぐる。
ところが、賑やかに喋る反対側のボックス席の中年女性組が目に入ると、
事態は一変した。
すっかりそちらに気を奪われ苛立ってしまったのである。
会話がうるさかったわけではない。
目いっぱいしゃれこんだ二人組の女性は同じ席に並んで腰掛けている。
前の席との間にガラガラ式の中型旅行かばんを置いている。
鞄は通路側に置いて相向かいで座れば良いのに。
置かれた鞄のおかげでその空席には誰も座れなかった。
初めは余裕があった車内だが、
だんだん立っている人も増えてきた。
私はおしゃべりに興じている二人のおばさんに注意したくてたまらなかった。
「かばんを通路側に置いたらどうですか?」と。
でも、いくら旅先とは言えさすがに言えない。
その二人は立っている人が増えてもかばんを移動させなかった。
目的の駅に着くひとつ前の駅で、やっとひとりの女性がやってきて、
「そこ、座らせてください」と言ったため、
通路側の女性がかばんを通路に移動した。
窓際の方の鞄はそのままだ。
この二人は乗車のマナーを知らないで今まで生きてきたのだろうか?
時にマッチョなおじさんが少し余裕のある場合など、
席の上に荷物を置いたりしていることは見かけるが、
四人掛けのボックス席の足元に人が入れないかのように、
スーツケースを置くのは珍しい。
しかも、かなり年増な女の人。
彼らは久々の旅行で回りが見えないほど楽しかったのか?
私のように小うるさく回りを観察する暇などなかったのか?
このくらいのことで目くじらを立てるなど、私が狭量すぎるのか?
いや、同じ日本人、ちよっと声をかけて注意すべきだったのか?
そんなことをイライラしながら思っているうちに、
列車は目的地の里の駅へ滑り込んだ。