近くのコンビニから用を済ませ自宅に戻っていたら、
裏道にある高い石塀に囲まれた邸宅のような家の前で、
ひとりの女性が道端の草むしりをしていた。
その家は四季折々木の花が見事で、
通るたびにどんな人が住んでいるのか気になっていた。
ここに来て10年近く経つのに、
そこから人が出てきたことは一度もなかったから謎のままだった。
私がその道を通るのが月に2回としたら、1年で24回となり、
すでに200回近くは通ったことになる。
人が住んでいないとも思っていた。
だから、何としても挨拶しなければ。
そんな気持ちで「草むしり大変ですね」と、
しゃがんでいる女性の後ろ姿に明るく声をかけた。
その人は気持ちの良い笑顔で挨拶を返してくれた。
そして、私が庭のことが気になっていたことを話すと、
次々とこの家について語ってくれた。
その人はここの家主の雇われ人で、
家主は高齢なためこの時期は草刈もしているのだと言った。
家主はどうやら地域の名士で相当な人らしく、
いまだに朝から夕方まで自分の会社に通っているという。
女性はそこの社員なのだ。
とうに奥さんは亡くなり、お子さんもいないから全くの一人暮らしだという。
私は平日の昼間ばかりしかここを通らないので、
時間が違うため会うことがなかったのだ。
草むしりの女性はとてもなつっこい人でせっかくだからと言って、
私を蔓バラのアーチから庭に招き入れてくれた。
そこには名前の知らない色とりどりの花が咲き乱れていた。
芝生の真ん中には石のテーブルがあって園遊会ができそうだ。
邸宅のガラス窓の中にも花々が飾られていた。
私は剪定済みの白い蔓バラを何本か頂いて、お礼を言い、門を出た。
家に戻り白バラを花瓶に挿して眺めていると、
子供の頃、今日の出来事と似たようなことを、
何かの物語で見たような気がしてならなかった。
。