車の行き交う国道沿いに無花果の木があり、たくさんの実をつけている。
濃い緋色の実に目を奪われ、見過ごすのが罪のように思えてしまう。
そこは、どこかの敷地とは思えず、境界から飛び出た持ち主不在の空き地のように見える。
ならば、貰っていこうかと思うが、車を止める場所がない。
いや、採ってしまえば泥棒になるかもしれず、車が止められなくて良かった。
そんなことを思っていると、信号は青に変わり、無花果のことはすっかり忘れてしまった。
翌日、スーパーに行ったら国産の無花果があった。
少し高かったけれど、迷うことなく籠に入れた。
国道で見たたわわな無花果の木のせいだ。
昔、家には無花果の木があって、次々と実をつけて始末に困るほどだった。
無花果には酸味がないため酸っぱい杏と混ぜ、ジャム作りをした。
毎日毎日ジャムができた。
大きな保存瓶に何本もできて、友達に上げたり、隣の人に上げたりした。
ある年、大木になった無花果がカミキリ虫にやられ、
幹から伐採することになったけれど、
その時はむしろ内心ほっとしたほどだった。
空を覆う大きな葉がなくなり、庭は風通しがよくなって明るくなった。
そんな無花果なのに、ないとなると妙に恋しい。
だから、買ってきた実は大切にジャムに仕上げた。
たった一瓶だから大事に味わうつもりだ。
ああ、でも、あの無花果、きっと今日も真っ赤に熟して私を待っているに違いない。