今日は人生初めての日だったなんて

好奇心がある限り心を文字で表すことは大切です。日記を書きます。

時には撤退もやむなし

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先日のこと、遠い山に出かけた。

その夜は、キャンプ場で野営して露天風呂まで歩いた。

風呂上りに冷えたビールとお酒を買って、

「さあ、明日は山だあ!」と仲間と取りあえずの前夜祭をした。

途中のお店には品が少なく、おつまみは淋しいものだった。

 

木立の間に広がるキャンプ地には

夏休みが始まったせいか若い家族連れの笑い声と、

お肉を焼く香ばしい匂いが漂い、羨ましかった。

でも、目的は明日の登頂だ、仕方ない。

 

長旅で疲れていたのか、目が覚めたときは外がすでに明るかった。

いつものようにコーヒーを飲み、

どうせ今日は山小屋泊りだからとゆっくりと支度した。

 

リュックに買っておいたおむすび二つとアルファ米を入れて出発。

今夜は営業小屋だから食料の心配はない。

 

ところが、登山口に着くと車がいっぱい。

おかげで駐車場を探すのに小一時間もかかった。

登山口に届を出して小屋に電話を入れ、

「四時頃に着きます」と宿泊の予約を済ませる。

 

カンカン照りの日差しの中、緩やかな林道を経て、傾斜の急な山道に入る。

出発が遅かったのか、後からやってきた登山者はたったの三人で気になった。

いつもならこんな有名な山域だからどんどん先を越されるのに。

 

初めのうちは100m、時間が経つと50m上がるたびに水を飲んで、

休みを取るほどになった。

1リットルの水がだんだん減っていく。

 

一緒に来た友人は私よりも疲れているようだった。

昨夜たいして食べていなかったから、

朝のおむすびだけでは確実にしゃりバテになるだろう。

目指す尾根まで一体何時間かかるのか。

根拠もないのに4時までに小屋に着くという自分の目論みが心配になった。

今回のことは急に決まったので、

誰かの記事で八時間というのが頭にあっただけなのだ。

 

4時間ほど経ったお昼ちょっと前、見晴らしの良いところに着いたので

アルファ米を食べて休んでいたら、下山の人たちがやってきて

ここから尾根まで自分たちなら四時間はかかると教えてくれた。

暑さと疲れで尾根についてもそこから小屋までまた四時間かかるかもしれない。

そう思うと、その時はもう戻ることはできない。

今、撤退するしかないではないか。

 

友達は驚いてひどく行きたがったけれど、私はここで戻ることにした。

この水場のない酷暑の中で、森林限界の高山の尾根を夜まで歩けるはずがない。

山小屋に連絡すると、今年の暑さは経験したことがないほどなので

注意して下山するようにと言ってくれた。

 

私はヒメサユリの咲く斜面で、長いこと目の前に広がる稜線を眺めていた。

再びここに来ることがあるだろうか。

かつて登った岩稜の山々が、私を静かに諭してくれているようだ。

 

下山の急坂は安易に計画してしまった自分の愚かさを噛みしめながら、一歩一歩下りて行くしかなかった。