久しぶりにテントを担いで高い山に登ってきた。
リュックの中身はテントやシュラフとかさばる物が多いけれど、営業小屋がそばにあるので飲み物は買うことが出来る。体重計で測ったら約7kだった。これならどうにか背負って歩けるとリュック姿の鏡にひとりごちた。
早朝に家を発ち、お昼に着いた登山口はガスっていたが空は明るかった。かなり悩んだけれど四時まで雨にならないことを祈って出発を決めた。本音は中止したかったのかもしれないが、何やらテント泊を決心したせいでその勢いに急かされた感じだった。
植生豊かな広葉樹の涼しげな森をふうふう汗をかきながらゆっくりと歩く。傾斜は緩いが運転の疲れと久しぶりの大きなリュックの肩に食い込む重みがこたえた。下山してきた登山者が昨日は途中で大雨になったと教えてくれた。たとえ今日もそうでももう戻ることはできない。前に進むのみだ。
テント場に着いたのは四時間かかった頃で、運よく一粒の雨にも見舞われなかった。そこにはピンクのハクサンコザクラや白いキヌガサソウなどの素敵なお花が待っていた。
灼熱地獄の下界と比べたらまるで別天地。テント場にはすでに何人かの人が夕餉の支度にかかっていて、あたりに美味しい匂いが漂っていた。私は急いでテントを張り、小屋で冷たいビールを買ってきた。今夜は味気ないアルファ米だけど、体力がないから仕方ない。
隣では若い女性がパスタを作っていた。何と、羨ましい! その人はもうこの別天地に三日もいるとか。その人はいつもソロテント派で、山や旅に関して価値観が似ていて話が尽きなかった。
壁に囲まれた小屋泊りと違い、生地一枚で自然を感じられるテント泊は、雨・風など色々と不安も多いけれど、その分自分が自然の一部になったようでたまらない。もともと私たちは自然の一部なのだから、こんな思いは当然なのか。
翌朝は光とともに起き、我が家は霧の中にそのままにして山頂に向かう。この日も山全体にガスがかかっていて視界は悪かったけれど、天国のようなお花畑に心浮き立つ。
2時間ほどで山頂に着くと、なぜか突然雲が切れ、大いなる山肌がこの目に飛び込んできた。まるで私のソロテント登山を山の神様が祝福しているかのようだ。祠に手を合わせ、この山を開山してくれた古の人に感謝した。
そして、無事下山。車のアイスボックスから小玉スイカを取り出した。甘い果汁が身体に染み渡り、ソロテント成功の感慨で胸がいっぱいになった。